PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

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Analyzing PHD2 Guiding Results

PHD2の公式サイトで、"Analyzing PHD2 Guiding Results - A Basic Tutorial"(リンク先PDF)というタイトルの文書が公開されています。筆者はBruce Waddington氏。

内容としては、実例を引きながらのトラブルシューティングと、PHD2における設定の勘所を記したものになります。一読したところ、なかなか役立ちそうな印象だったので、ぜひ日本語訳を……と思って筆者とのコンタクトを試みているのですが、残念ながら現在まで返信すら一度もない状態。下手すると許可を求めるメールがスパムとして処理されている可能性もないではないですが……(^^;

というわけで、著作権者の翻訳許可が取れない以上「原文を読め」という話にならざるをえないのですが、英語が苦手な人はいるでしょうし、せっかくの有用そうな情報ですので、重要そうな部分をかいつまんで紹介したいと思います。

オートガイドは急激な変化には対応できない

この文書の中でしつこく言及されている(そして実はPHD2の説明書にも書いてある)のは「PHD2を含め、アマチュアレベルのガイド装置では『急激な変化』には原理上対応できない」という点です。

ここで言う「急激な変化」とは、いわゆる「シーイング」のことです。


地上から見る星は分厚い大気の層を通ってくるわけですが、大気中には温度や気圧の異なる空気の塊がいたるところにあり、ランダムに動き回っています。そして、星からの光はこの空気の塊の境目で屈折するため、光はさまざまな方向に不規則に曲げられ、星がユラユラと揺れたり、チカチカと瞬いているように見えます。これが「シーイング」の正体です。

その場所の大気の状態にもよりますが、シーイングによる星の見かけの位置の変化というのは、毎秒数十〜数百回という頻度に及びます。これほどの高速な動きには、アマチュアレベルの装置では(たとえ補償光学装置(AO)を使ったとしても)対応することはできません。

また、オートガイダーの動作から考えてみても、露出して、画像をダウンロードして、ガイド星の位置を計算して、適切なガイドコマンドを発行して、架台がそれを受け取って動いて……とやっている間にも、センサー上の星の位置はシーイングにより動いているはずです。つまり、ガイドコマンドは常にガイド星の過去の位置情報を基に発行されているわけで、本質的に「後追い」にならざるをえません。


つまり、アマチュアの行う「オートガイド」は、極軸設定のズレによるドリフト、ピリオディックエラー、大気差による動きのズレといったゆっくりした変化には対応できるが、シーイングによる星像の動きには本質的に対応できない、ということです。

逆に言えば、いかにして「シーイングによる小刻みな位置変化」というノイズを拾わずに「ゆっくりした変化」のみを効率よく拾うかという点に注力すべきということです。


対策の1つは、ガイドカメラの露出時間を伸ばすこと。こうすることで、シーイングによる星像の動きが平均化され、「ゆっくりした変化」が見極めやすくなります。ただし、露出時間が伸びるとガイドコマンドが送られる回数も減るため、コマンドが来ない間、正しく追尾できる程度の機材の精度、設置精度が求められます。本資料では、2〜4秒程度の露出を初期値として推奨しています。

また、「最小移動検知量」(Min-move)を大きくしたり、赤経側の「積極性」(Agressiveness)を下げたり、赤経側の「ヒステリシス」を上げたりするのも手段としては有効です。ただ、このあたりのパラメータの変更はかなりデリケートで、むやみやたらに触っても結果がかえって悪化しがちです。

ここは素直に「ツール」→「ガイドアシスタント」機能を使ってみてください。v2.5あたりからの比較的新しい機能なので活用している人が少なそうですが、1分〜数分ほどの試運転で追尾状況やシーイングを監視・計測し、適切なパラメータ設定をアドバイスしてくれます。

ハードウェアの調整

これでなおガイドの状況が思わしくない場合、ハードウェアの側に何か問題がある場合がほとんどです。風や振動、ケーブルの引っ掛かりといった突発的な事象、架台のバックラッシュ*1、軸周りのバランスの不良、ガイドシステムのたわみなどがよくある原因ですが、これらはいずれもそのハードウェアのレベルで修正するべきもので、PHD2のパラメータ設定でどうにかしようというのに無理があります。

実際、私が普段使っている感覚でも、PHD2のパラメータ設定はよくできていて、ハードウェアに問題がなければ十分なパフォーマンスを示します。明らかにガイドが流れるといった症状が出る場合、ハードウェアに問題があることが多く、これを解決しないと根本的な対策になりません。「PHD2 パラメータ設定」といったキーワードでググッてこのブログに辿りつかれる方も多いのですが、上記のシーイングの件を除けば、大半はハードウェアの状態を見直すべきケースなのではないかと思います。

なお、ガイドシステムのたわみについてですが、本資料の筆者は、1500mmを超えるような長焦点ではオフアキシスガイドの使用を推奨しています。たしかにそのやり方がスマートだとは思いますが、安定したシステムを構築するまでの手間もそれなりにかかるので、このあたりは個人の好みの部分も多分にあるだろうと思います。

*1:架台によっては、架台のコントローラ側でバックラッシュ補正量を設定できるものもありますが、PHD2を使用する場合、修正動作とバッティングするため使用しない方がいいようです。