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CP+ 2015

昨年は大雪直撃で行くのを断念したCP+。今年は各メーカーとも興味深い新製品を多数発表したタイミングということもあり、この土曜日に久々に行ってきました。前回行ったのが2012年ですから3年ぶりです。


ここ数年の人出から考えてかなり混みそうな予感がしたので、開場の30分くらい前を狙って会場入り。入場待機列はすでにそれなりの長さでしたが、恐れていたほどではなかった感じ。もしかしたら、一部はアウトレット会場のほうに流れていたのかもしれません。

さて、では各ブースで目についたものをいくつか。

ビクセン

ビクセンのブースでは、APシリーズのさまざまなバリエーションが最も目立つ位置に展示されていました。




これらは写真赤道儀のスタイル。1枚目はカメラ三脚と組み合わせて使うことを想定した組合せで、極軸を合わせやすくする「極軸微動雲台」(参考出品)とのセットです。2枚目のものは「APフォトガイダー」として展開されているのと同じもの。



こちらは今回初お目見えの経緯台スタイル。AOKAYO経緯台に近い形です。搭載可能重量は8kgで、経緯台の位置づけとしてはポルタIIより上位になります。


こうしたAPシリーズの展開について社長からお話を伺ったのですが、印象的だったのは通常の写真から星景写真、天体写真に流入してくる層が増えており、これらを強く意識しているという点です。こうしたことを考えると、セットの三脚が縮長が非常に短く持ち歩きに適している点も含め、以前も書きましたが、赤道儀としてのAPはまさしく「ポラリエの強化版」と考えるべきなのだろうと思われます。

GP2/GPD2と入れ替わりで登場した上、正式名称が「Advanced Polaris」なので、つい望遠鏡を載せて運用する通常の赤道儀の感覚で捉えがちですが、「ポラリエを強化したもので、望遠鏡も載せることができます」というくらいの感覚で捉えた方がよさそうです。正直、望遠鏡を本格的に運用するには物足りない性能・仕様ですが、「ポタ赤の余技」と考えればこれはこれでアリかもしれません。*1

のみならず、パーツの組み合わせ、展開によっては他の運用の仕方もありうるわけで、目指すところは経緯台だの赤道儀だのといった分類にとらわれない、空を見る/撮るためのツール群」なのだろうと思います。


ただ、こうした製品の位置づけが正しく伝わっているかというと、現時点では残念ながらいささか怪しいと言わざるをえません。モジュールの種類が増えてきたこともあって、ようやくカタログやウェブサイトにおいて「APは伝統的な意味での『赤道儀』じゃないのだ」というアピールが増えてきましたが、なにしろ新しい概念ですので、分かってもらうのはかなりの困難が伴うと思われます。なまじ望遠鏡と赤道儀形態とのセットがあるのも、メッセージとしてはかえって逆効果かもしれません。

あとは、やはり価格がどうしてもネックかと。かなり凝ったつくりをしていますし、各パーツは一度赤道儀の形に組み上げて精度等のチェックをしている*2そうで、こうした部分もコストアップの要因になっていそうです。在庫管理含め、なかなか難儀な製品だとは思います。




ブースの奥まったところに展示されていたのは「SXP-Concept」なる試作機。ニューアトラクスの極軸体にSXPの赤緯体をくっつけたようなスタイルをしています。この試作機には高精度のエンコーダが組み込まれており、赤経軸の回転を常にフィードバックすることでピリオディックモーション1.5秒以下を達成しているとのこと。やっていることとしては、iOptronのCEM60-ECと同じ発想です*3。この高精度からもわかるとおり、位置づけとしてはAXD赤道儀とSXP赤道儀の間に相当するものになります。

明るい光学系の登場やカメラの高感度化もあり、こうした架台と組み合わせることでいずれガイドなしでも十分な品質の写真が撮れるようになるのではないかという話を社長がされていましたが、このあたり、価格と使い勝手とのせめぎあいになりそうで、人によって判断の分かれそうなところ。なお、この架台については今のところ、それこそ価格面を含めまだまだ検討が必要な段階のようです。


ただ…APシリーズにせよSXP-Conceptにせよ、高い精度や柔軟な構成は魅力的な部分がありますが、後述するセレストロンの割り切り方などと比較すると色々と考えさせられるところではあります。哲学の違いとでも言うべきもので、単純に良し悪しで割り切れる問題でもありませんが…。



そのほか、小物類もいくつか展示されていました。こちらは83度の見かけ視界を誇る広視野アイピースのSSWシリーズ。年内発売予定とのこと。



写真の「コレクターPH」はR200SS用の新型補正レンズ。コマ収差を取り除くとともに、F4からF3.8へと若干明るくなります。このレンズを使っての作例が展示されていましたが、画面隅の方までよく補正されている印象でした。



こちらはレンズヒーター。ヒーター自体がベルベットのような非常にソフトな素材で、しかもそっと重ねるだけで素材の布(?)同士が柔らかに吸着します。マジックテープやゴムバンドで留めるタイプだと、ヒーターを巻いた拍子に構図やピントがずれたりしがちですが、その心配はありません。しかも、レンズに触れても傷がつかないほどの素材の柔らかさ。写真の試作品では電源コネクタがいわゆるDC電源のものになっていますが、実際にはUSB対応にする予定とのことで、使い勝手はかなりよさそうです。

サイトロン

サイトロンのブースでは、同社が代理店を務めるセレストロンとスカイウォッチャーの製品が展示されていました。



一番目立つところにあったのが、F2.2の明るさを誇るRowe-Ackermann Schmidt Astrograph。シュミカセの主焦点位置に補正レンズとカメラを配置した構成で、StarizonaのHyperstarと実質的に同じようなものです。口径279mm(11インチ)、焦点距離620mmという仕様。

F2.2という明るさゆえ、光軸調整がさぞ大変…と思いきや、可動部位がほとんどないため、ほぼ出荷状態のままで問題ないとのこと。ラージフォーマットの撮影機材を用いる場合に若干のスケアリング調整が必要な場合があるようですが、APS-Cくらいまでならほとんど問題ないそうです。



実際、カメラ取付部周辺には、見える範囲では光軸調整ネジの類は見当たりません。

工場での組み付け精度にほぼ全面的に依存する形になりますが、元々主鏡は球面で光軸のずれに鈍感ですし、補正板もパワーが弱いために位置ずれには鈍感…ということで、こんなもので十分なのかもしれません。このあたりは、精度はいいけど光軸調整が鬼のように厳しいイプシロン光学系などと好対照で、いかにも実用本位のアメリカらしい割り切り方です。

BORG


BORGのブースでは、金属鏡筒80φに代わるカーボン鏡筒が展示されていました。当然ながらかなり軽く、システムの軽量化に大いに役立ちそうです。また、熱膨張がほとんどない素材のため、気温変化に伴うピントのずれなども最小限に抑えられそうです。



その隣にはコンセプトモデルとして107FLが。これだけ大きいフローライト屈折だと、もし製品化されたとしてもとんでもない値段になりそうではあります。



ミニボーグ関連ではDX鏡筒が展示されていました。摺動部にはフッ素樹脂が使われており、従来品に比べると動きがスムースです。また、内面は植毛処理がしてあってDXを名乗るだけのことはある感じ。また、最も短い[6010]ミニボーグ鏡筒DX-Sを除き、アルカスイス規格対応の三脚座もついているので、システムによってはかなり有用そうです。もっとも、摺動部に関して言えば、ヘリコイドを使っているとほとんど使わないんですよね…。

そのほか、SWATのポタ赤も展示されていましたが、特に新製品というわけでもないのでこちらは割愛。

ケンコー・トキナー


ケンコー・トキナーのブースでは、新製品の「スカイメモS」がブース中央に展示されていました。実はこれ、スカイウォッチャーのStar Adventurerと全く同じものです。機能としては、通常の恒星時駆動のほか、0.5倍速モードや月追尾モードを持っていて、それなりに高機能。システム自体は軽量で、覗きやすい位置に極軸望遠鏡を備えていることもあり、使い勝手は悪くなさそうです。精度に関しては実際に使ってみないとわかりませんが。



また、ブースの奥にはSkyExplorerシリーズに加え、ミードの望遠鏡も。そういえばケンコー・トキナーが代理店になったんでしたっけ…。

ニコン


キャノンに続き、本格的な天体撮影専用モデルを発表して話題となったニコン。ブースの一角でD810Aを展示していました。当たり前ですが、外見はノーマルのD810と全く同じです。

Hα線の透過率を増したフィルターを装備しているのみならず、ライブビュー時に30秒露出相当のプレビューを表示する機能、比較明合成時に星の光跡が途切れにくい連写機能、シャッター速度の設定が実制御秒時である点など、実際に撮影するときに便利そうな機能が多々揃っています。

開発者である映像事業部開発統括部の渡部剛氏自身が天体写真家ということで、実使用時のニーズを踏まえた「痒い所に手が届く」製品になっていそうな印象です。価格はお世辞にも安いとは言えませんが、こういった製品が出てくること自体、価値があると思います。

ペンタックス


ペンタックスでの一番の話題は、やはり開発表明されたフルサイズ機。黒山の人だかりになっていました。気になるサイズですが、横幅は従来のAPS-C機と同程度で、背だけが高くなっている印象です。このまま製品化されるのであれば、よくぞこのサイズに収めたものだと思います。

また、新製品であるK-S2とキットレンズの「DA L 18-50mmF4-5.6 DC WR RE」も触れる状態で展示。派手なシャッター音はクラスなりという感じもしますが、小型軽量である一方で握りやすく、ファインダーの覗きやすさも上々。このあたりはさすがにペンタックスらしいところです。沈胴式の「DA L 18-50mmF4-5.6 DC WR RE」は、レンズを繰り出すために、ボタンを押しながらズームリングと兼用のリングを回す必要があり、慣れるまでは戸惑いそう。繰り出した後のスタイルはお世辞にも格好いいとはいえず、ズームリングの感触も軽めで、正直、こちらは個人的にはあまり惹かれませんでした。



一方、カメラ以外にも双眼鏡のラインナップを一新したということで、全機種覗けるようになっていました。上位のZシリーズなどは、たしかに8×43 DCF SPなどの従来機種に比べて格段に抜けの良い見え味で、光学系やコーティングなどの改良が効いているのだろうと思われます。価格的には国内他社の高級機とまともにバッティングする位置なので、頑張ってほしいところです。

キャノン

キャノンブースはEOS 5Dsが目玉で、タッチ&トライのコーナーはものすごい人だかり。ただ、個人的にこちらは興味ないのでスルー。



一方、目に留まったのは参考出品の「PowerShot G3 X」です。1型センサーと24-600mm相当のレンズを装備した強烈なスペックの機種ですが、G1 XやG7 Xからの流れを考えると、かなり路線が違う感じ。スペックの割にコンパクトとはいえ図体は相応に大きく、使う人を選びそうです。

シグマ


レンズが大きいつながりで「dp0 Quattro」。このレンズは本当に存在感があります。



大きさだけで言えばコンバージョンレンズを装着したdp3 Quattroといい勝負で、確固たる目的がない限り、なかなか使いこなせるものではなさそうです。

*1:「余技」などと書くと怒られそうですが、実際、本格運用するには欠点が多すぎます。

*2:社長さん曰く、ユーザー側がどういう組み合わせをするか分からないので、欠かせない工程だとのこと。

*3:というか、最近iOptronがビクセンがやりたそうなことを次々実現しているのがなんとも…。ちなみにCEM60-ECはピリオディックエラー1秒未満を謳っています。