PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

PHD2マニュアル その3

間がちょっと空いてしまいましたが、PHD2のマニュアルの続き、「詳細設定」についての章です。ある意味、PHD2最大のキモとなる部分です。

詳細設定

オリジナルのPHDのユーザーにはよく知られているように、詳細設定は「脳みそ」ボタンからアクセスします。ガイドのパフォーマンスを最適化できるよう、PHD2はかなり多様なパラメータを調整できるようになっています。これらは「詳細」設定と呼ばれていますが、特に理解が難しいものではなく、これらを調べるのをためらってはいけません。各入力フィールドは、その内容をある程度詳細に説明する小さなメッセージウィンドウである「ツールチップ」を備えています。ツールチップはフィールドの上にカーソルをホバーすることで表示されます。多くの場合、これで必要な情報が得られます。設定可能な項目は多岐にわたるので、PHD2では詳細設定ダイアログをタブで整理しています。この文書もその構造に従います。

Globalタブ


Globalタブの項目のほとんどは、プログラムの全体的な機能と動作に関連します。そのうちのいくつかはログの取得とデバッグ機能に関連します。


ロギングおよびデバッグ出力

PHD2は必要に応じて2種類のログファイル、すなわちデバッグログとガイディングログを精製することができます。どちらもそれぞれ違った意味で、非常に有用なものです。

ガイディングログはPHDで生成されるものと似ていますが、より多くの情報を与えます。これにはガイドグラフでリアルタイムに確認できる項目のスーパーセットが含まれ、これを事後に分析することで、パフォーマンスの評価や問題の特定を行うことができます。サードパーティ製のアプリケーションのいくつかは、これらのログを分析し、定量的でグラフィカルな結果を生成することができます。

デバッグログはPHD2のセッション内で行われたすべてを完全に記録するので、発生した問題を特定するのに非常に便利です。人が見やすいテキスト形式で記録されているので、何が起こったかを知るためにデバッグログを解析するのは難しくありません。ソフトウェアの問題を報告する必要がある場合、ほぼ確実にデバッグログファイルを提供するように求められます。

これら2つのログファイルは、Globalタブの「Enable Logging」がチェックされている場合に生成されます。ログファイルの保存場所は、ダイアログの下の方にある「Log File Location」で設定します。デフォルトでは、ログファイルはOSで規定されている、ユーザーデータ保存用のディレクトリに保存されます。たとえばWindowsの場合、ファイルは「マイドキュメント」下に作成される「PHD2」サブフォルダに保存されます。これだと不便な場合、このフィールドを編集することで任意の場所にログを保存させることができます。

特殊なケースでは、デバッグや問題解決のために、ガイドカメラからの画像をキャプチャする必要があります。これは「Enable Star-image Logging」チェックボックスをチェックすることで有効にすることができます。

General Parameters

Globalタブの残りの項目についてはツールチップに十分な記載がありますが、念のためここにまとめておきます。

「Reset Configuration」
すべてのセッティングをPHD2の初期値に戻します。
「Image format」
「Star-image Logging」が有効な場合、その画像フォーマットを決定します。
「Dither RA only」
PHD2サーバインターフェイスを利用するコンパニオンアプリケーションのために、RA軸のみディザリングするかどうかを決定します。
「Dither scale」
ディザリングの量を決定します。
「Noise reduction」
ダークフレームによる処理が有効でないほどノイズの多いガイドカメラの画像を処理するアルゴリズムを決定します。選択肢は「None」(なし)、「2x2 mean」(2x2平均値)、「3x3 median」(3x3中央値)です。「2x2 mean」、「3x3 median」のどちらもノイズを大幅に低減させます。「3x3 median」は特にホットピクセルに対して効果的で、ガイド精度に大きく影響します。
「Time lapse」
ガイド露出間に一定時間の遅延を挿入します。これはガイド露出が非常に短時間で、架台やカメラとのトラフィックレートが非常に大きくなりそうな場合、オーバーロードを防ぐのに役立ちます。
「Focal length」
ガイド鏡の焦点距離。PHD2が画像のスケールを計算し、ガイドパフォーマンスを角度単位でレポートするために必要な2つのパラメータのうちの一方です。もう1つのパラメータであるオートガイダーのピクセルサイズについては、Cameraタブで設定します。
「Language」
PHD2のユーザーインターフェイスに用いる言語を設定します。変更を反映するにはプログラムの再起動が必要です。
「Auto restore calibration」
機器が接続されたら自動的に前回のキャリブレーション結果を読み込みます。「オートキャリブレーション」の章を熟読し、その仕組みと潜在的リスクを理解したうえで使用してください。

Guidingタブ

Guidingタブには比較的少数のパラメータしかありません。これらの意味は以下のとおりです。

「Always Scale Images」
ガイドカメラからの画像を常にディスプレイウィンドウのサイズにフィットさせます。通常、PHD2はこれを自動的に行うので、これを操作する必要はほとんどありません。
「Search region」
追尾領域の四角形の大きさをピクセル単位で指定します。架台の性能が出ていない場合や、極軸が正しく合っていない場合、この値を大きくする必要があるかもしれません。
「Star mass change detection」
背景の明るさと比較してガイド星の像の明るさと大きさの変化を監視します。
「Star mass tolerance」
「Star mass change detection」にチェックが入っていた場合、星像の明るさと大きさがここで設定したパーセンテージ以下になった時に「lost star」エラーを発します。追尾領域の四角の中に2つの星があり、PHD2がこれらを取り違えないようにしたい場合に有用かもしれません。また、薄雲や高いカメラノイズ、α線の衝突などによるエラーを防止するのにも役立ちます。しかし、微光星をガイドに使用している場合、かえって信頼性を下げてしまいます。

Cameraタブ

Cameraタブにある項目は以下の通りです。

「Use subframes」
カメラがこの機能をサポートしている場合、PHD2は各ガイド露出のサブフレームのみダウンロードします。これはダウンロードが低速で、そのために効果的なガイドを行えないようなカメラに大変有効です。この機能を有効にした場合、星を選択した後は100x100ピクセルの小さなサブフレームのみダウンロードします。この機能はキャリブレーションにもガイドにも適用されます。星をまだ選択していない最初のルーピングの間はフルフレームがダウンロードされますが、一度星を選択すれば、小さいサブフレームのみがダウンロードされます。サブフレームを利用しているときに、他の星を選択するためにフルフレームの画像が必要となった場合はサブフレームの外側をクリックしてください。
「Camera gain」
この機能をサポートしている多くのカメラにおいて、ゲインを設定します。明るい星や長い露出時間を使いたい場合、あるいはカメラのノイズが非常に多い場合、この値を下げてみてください。
「Pixel size」
PHD2が画像のスケールを計算し、ガイドパフォーマンスを角度単位でレポートするために必要な2つのパラメータのうちの2つ目です。ここに入力するべき正しい値については、カメラの説明書を参照してください。
「Auto load dark frames」
異なる露出時間についてダークフレームを取得しており、「File/Save Dark Frames」メニューで結果をファイルとして保存している場合、機器を接続したときにPHD2は自動的にこれをマスターダークフレームとして読み込みます。これは、ダークフレームの撮り直しをしなくてもダークフレームの減算をしてくれるという利点があります。ただ、ダークフレームは温度変化に敏感で、ホットピクセルの出方も時間によって変化するので、一定期間ごと、あるいは温度が変化したときにダークフレームを撮り直してください。

Mountタブ

Mountタブは非常に多くのパラメータとUIコントロールを持っていて、詳細設定の中で最も複雑な領域です。これらの設定のほとんどは様々なガイドアルゴリズムと密接に結びついていて、アルゴリズムの選択を変更した場合、ダイアログの内容は大幅に変化します。そのため、ガイドアルゴリズムに関連するパラメータについては、別のセクションで一緒に説明します。

ガイドアルゴリズムの選択から独立している残りのコントロールは、以下に示す通りです。

「Force calibration」
ガイドを再開する際に強制的に再キャリブレーションを行います。ガイドカメラを動かした場合、子午線越えを行って望遠鏡の姿勢が変わった場合など、様々な場面でこれは使われます。
「Enable guide output」
PHD2から架台へのガイドコマンド送信を有効にするもので、通常はチェックされています。しかし未修整時の架台の挙動を知りたい場合などはこれを無効にします。具体的には、架台のピリオディックエラーを知りたいときや、極軸設定のずれによるドリフト量を知りたい場合などです。
「Calibration step-size」
キャリブレーション実行時のガイドパルスの長さを指定します。使い方については「PHD2の使い方」の「オートキャリブレーション」セクションのページを参照してください。キャリブレーション時のガイド星の動きが「速すぎる」か「遅すぎる」かによってこの値を調整してください。一般的に、天の赤道から30度以内の星を用い、ステップサイズが各方向とも8〜14ステップになる場合に良好なキャリブレーション結果が得られます。右側にある「Calculate…」ボタンは適切な値を計算するのに役立つダイアログを表示します。

この計算機を使用するには、一番上にある3つのフィールドに正しい値が入力されている必要があります。

焦点距離とカメラのピクセルサイズが、それぞれGlobalタブおよびCameraタブで既に入力されている場合、これらのフィールドには値が設定されているはずです。

また、架台において用いるガイドスピードを恒星時の倍数で指定・選択する必要があります。ほとんどの架台では恒星時の1xや0.5xといった値が指定されていますが、他の値を選択することもできます。

「calibration steps」はデフォルト値の12のままでいいですが、天の赤道から遠く離れた星を使用する場合はその赤緯を入力します。そして「Recalc」を押すと、PHD2は現在のイメージスケールと推奨されるキャリブレーションのステップサイズを計算します。

「OK」をクリックすると、値がMountダイアログの「Calibration step-size」に入力され、GlobalタブおよびCameraタブにある焦点距離とカメラのピクセルサイズも更新されます。つまり、ここで変更を行うとそれは直ちに反映されます。しかし「Cancel」を押した場合は、変更は反映されません。

「Max Duration RA」
赤経方向について、許容される最長のガイドパルス持続時間を指定します。「突然のホットピクセル発生」といった偽のイベントによる大きな変位の誤認識を「追尾」するのを防ぎたい場合には、デフォルト値より下げる必要があるかもしれません。
「Max Duration Dec」
赤緯方向について、許容される最長のガイドパルス持続時間を指定します(上記項目の「赤経」が「赤緯」に変わっただけです)。これは赤緯方向のガイドについて過修正とその後の反転を抑制するのに役立ちます。
「Fast recenter after calibration」
東西方向および南北方向のキャリブレーションにおいて、「戻る」ところを加速します。
「Reverse Dec output after meridian flip」
ユーザーがキャリブレーションデータの反転機能を使ったときに、キャリブレーションデータをどう調整するかを決定します。架台によっては自らの姿勢を認識し、赤緯方向のガイドコマンドを自動的に反転させるものがあります。一方、多くの架台はそうではありません。いずれにせよPHD2は、架台がその姿勢に応じて自動的に振る舞いを変えるかどうか知る必要があります。どのように動作するかの情報を得るのが困難な場合、実際にちょっと動かしてみるのがおそらく一番簡単です。 チェックボックスをオフにして、一方の姿勢でキャリブレーションを行い、次いで姿勢を入れ替えます。「Tools」メニューの下の「Flip Calibration」を選択し、ガイドをスタートします。もしガイドが正常に行われるなら、チェックボックスはオフのままにしてください。しかし赤緯方向に外れていくようなら、チェックボックスをオンにしてもう1度実験してみてください。

このダイアログ内の他のすべてのコントロールは、選択したガイディングアルゴリズムに関連していて、これについては「ガイドアルゴリズム」の章で説明されています。

AOタブ

AOタブの上半分にある編集コントロールのほとんどは、Mountタブの対応する各項目と同じ意味を持ちます。ガイディングアルゴリズムは、架台に送られる"bump"コマンドに対してではなく、AOデバイス自身ののチップ/ティルト光学素子の制御に適用されます。

AOデバイスは重量のある装置を動かすわけではないので、ガイドアルゴリズムのパラメータをより積極的なものにすることができます。たとえばヒステリシス・アルゴリズムを用いている場合、おそらく100%といった高いレベルのaggressivenessから始めるべきです。また、「None」アルゴリズム―減衰も履歴ベースのアルゴリズムも適用されない―を選ぶこともできます。この場合、修正は直近のガイドフレームにのみ基づいて行われ、変位を100%修正するように動作します。

キャリブレーションプロセスや"bump"コマンドが発行された場合の動作制御はAOタブ下部の4つのパラメータで行います。

「calibration step」は、キャリブレーション時にチップ/ティルト素子が上下左右に動作する大きさを決定します。ガイド星の位置は各キャリブレーションの最初と最後に測定されますが、「samples to average」パラメータはいくつの測定点を採用するかを設定します。シーイングによりガイド星は常に跳ね回るので、画像の平均化は重要です。

前述したように、AOユニットが補正できるのは、ガイド星の動きが限られた範囲内に収まっている場合のみです。実際に補正限界に到達する前に架台の「bump」修正を開始したいだろうと思いますが、「bump percentage」はこの目的のために使います。架台を動かすために、完全なbump修正は段階的に行われますが、「bump step」はこのときの段階の大きさを設定します。bump動作が始まっても、ガイド星が「bump percentage」領域の範囲外にとどまっている場合、PHD2は星が範囲内に戻るまでbumpサイズを増やし続けます。中央に戻るまでのこの追加の動きは、設定された「bump step size」に従って行われます。

この複雑さは、架台がbump動作していても星像を長引かせることなく、良好なガイドを維持するために必要なものです。bump動作の間もAOは補正を続けており、長時間のbumpはAOによって相殺されます。

訳者補足

使用者によって、あるいは使用環境によってチューニングが必要な部分で、ここの設定次第でガイドパフォーマンスは大きく左右されます。先代のPHD guidingにおいても、パラメータ設定に頭を悩ませた方は多かったはずです。

しかしPHD2においては、ここの負担はかなり軽減されています。キャリブレーションの設定については最適値を計算する機能が備わっていますし、その他の項目も整理され、PHD guidingに比べるとかなり分かりやすくなっています。補償光学装置(AO)に対応したのも大きなトピックです。

なお、「Globalタブ」にある「ディザリング」についてですが、これは撮像素子の欠陥画素を目立たなくさせるために、意図的に構図をわずかにズラす機能のこと。コマごとにこれを行い、コンポジット時にσクリップを行うことで欠陥画素による黒点や輝点を除去することができます。