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SXP赤道儀レビュー 〜ハードウェア編〜


せっかく導入したSXP赤道儀ですが、天気がアレでいまだに稼働できず。というわけで、まずは室内で一式組み立てて、あれこれチェックしてみました。

STARBOOK TENについて

SXPの制御装置であるSTARBOOK TENですが、SXDの制御装置であるSTARBOOKとは様々な面で大きな違いがあります。


まず外観では、ディスプレイが大型・高精細になっているのが目につきます。表現力がアップしているのはもちろん、暗赤色主体の「夜間モード」表示を備えていること、バックライトの明るさ調整の幅が大きいことなど、観測者の目に優しい仕様になっています。STARBOOKでは最低輝度にしてもディスプレイが明るすぎ、減光用のスモークフィルターをわざわざ別売していたことを考えると雲泥の差です。


また、各種コネクターの配置が改良されています。STARBOOKではコネクターが一段奥まったところにあり、爪のあるLANケーブルやオートガイダーのケーブルなどの抜き差しがものすごくやりづらかったのですが、STARBOOK TENではフラットな本体底面にコネクターが設けられているため、そうした問題は発生しません。


実際に電源を入れて操作を始めると、レスポンスの良さに驚かされます。調べてみると、STARBOOKのCPUはARM7 TDMIコアのCirrusLogic CS89712(70MHz)なのに対し、STARBOOK TENはSH-4Aコアのルネサス SH7764(324MHz)。単純にクロックだけで見ても約5倍の差がありますし、アーキテクチャの進歩や機能面も考えれば、性能差はさらに大きいでしょう*1。キビキビと動いてかなり快適です。


キーの操作性は比較的良好。STARBOOKの場合、ボタンが小さく形状がみな同じの上、互いに近接しているためにボタンの押し間違いが頻発していたのですが、テンキーとバックライトが装備されているSTARBOOK TENでは、その心配はありません。

ただ、各キーが複数の機能を兼ねている一方で画面上での案内が乏しいため、操作を覚えるまではやや分かりづらい印象があります。また、本体左端のズームキーと右端の方向キーのデザインが全く同じため、混乱しがちです。せめて印字を変えるくらいの工夫はほしかったところです。いずれも慣れで解決できる問題ですが…。

赤道儀本体

次に本体です。


重量はSXDの8.8kgから11kgへと約2kgの増。赤緯体を下にして抱えて持つ分にはあまり重さの違いを感じませんが、三脚上に設置するため正位置に戻すとかなりズッシリとした感触です。

サイズはSXDとほとんど同じ。しかし望遠鏡の取り付け方法が変わり「プレートホルダーSX」を後付するようになった関係上、やや首長に見えます。首が長いということは、その分モーメントも増えますので、強風時などやや心配です(実際に使い始めてみないとわかりませんが)。



望遠鏡の取り付け部分は、「プレートホルダーSX」を装着していない状態ではM8のネジ穴が4対、計8個あけられています。プレートホルダーSXを用いる場合、取付けはどの穴を用いてもいいことになっています。うまいと思ったのは、プレートホルダーをどの穴に取り付けた場合でも、赤緯クランプと鏡筒とが完全には平行にならないことです。一見気持ち悪いのですが、この構造のためにクランプと鏡筒との間に角度が付き、SXDなどと比較するとクランプを締めやすくなっています。



鏡筒の取り付け方法に自由度が増したこともあり、望遠鏡をホームポジションにする際の目安となる位置指標は、赤緯軸周りの3か所のイモネジで動かすことができるようになっています。しかし位置指標は1か所しかなく、複数の構成を使い分けようとした場合、問題が生じます*2。一応、イモネジの1つが位置指標から90度離れた位置にあり、これを位置指標代わりにすることはできますが、SXDでは位置指標が90度ずつ離れて3か所にあっただけに、なんとも惜しい作りです。

また、位置指標自体も単なる丸いポッチで、ライン状になっていたSXDなどと比べると正確な位置合わせがしづらいです。まぁ、ホームポジションが多少不正確であってもアライメントで補正されるので問題ないのですが、指標の形が従来と同様であればよかっただけなので、なぜわざわざこういう形にしたのか首をかしげざるをえません*3



極軸望遠鏡の対物側のふたは、SXDではプラスチックだったのに対し、SXPでは金属に。また、ふたを外すとガラスがはめ込まれていて高級感があります。実用上はほとんど無意味だろうとは思いますが(^^;



赤緯体の側面パネルは、妙に穴の小さなトルクスネジで留められています。SXDでは化粧パネルをスライドさせて外したのち、普通の六角レンチを使えば内部に簡単にアクセスできたので、多少敷居が上がった感じ。トルクスレンチ自体は、今や入手は比較的容易ですが、穴が小さいだけに舐めそうで怖いです。調整が必要な場合は、基本的にメーカーに任せろ、ということなのでしょう。


さて、触ってみて真っ先に分かるのは、軸の動きの軽やかさです。SXDはクランプを解除しても軸の動きがしぶく、バランスを合わせるのにとにかく難儀しましたが、SXPでは非常に滑らかに回ります。ベアリングの効果でしょうか*4 ?実際、普段の撮影機材を載せてみると、これまでバランスがあっていると思っていた組み方では微妙にバランスが狂っていたことが判明。SXDでしばしばガイドが暴れていたのは、これが原因の1つだったのかもしれません。

ただし、バランスに敏感で軸の回転が軽い分、油断すると設置中思わぬ時に軸が回転し、機材を破損しかねません。これについては要注意です。

いわゆる「クランプ問題」について

各所に上がっているSXPのレビューを見ていると「クランプを締めた時に軸がわずかに回転する」という問題を取り上げているところがあります。曰く、手動で天体を導入した場合などに、クランプを締めると鏡筒の方向がわずかに変わってしまうため使いづらい、こういう作りの甘さはいかがなものか…という話のようです。

なるほど、クランプを締めるとたしかに軸がわずかに回転します。ただ、これをもって「問題だ!」とことさらに騒ぎ立てるのには賛同しかねます。


目盛環がないことからも分かるとおり、これらの赤道儀は全自動で用いることを前提とした設計になっています。そして説明書の手順に従って操作する限り、この動きは何の支障にもなりません。であるのに、手動で操作する際の使い勝手を云々するのはフェアではないと思うのです。例えてみれば、全自動洗濯機を前にして「洗濯板での洗濯がしづらいのは問題だ」と言っているようなもの。作り手側にしてみれば、マニュアル外の使い方をされた場合の使い勝手まで責任持てないというのが本音でしょう。

もちろん、クランプの締め付けで軸が動かないのが理想だとは思いますが、実用上はまったく問題ないのですし*5、もしその対策のためにさらに価格が上がってしまうくらいであれば、現状で構わないと思います。

*1:古いPCユーザー的に言えば、486SXとPentium IIIくらいの差はあるかと

*2:たとえば、鏡筒を単独で載せる場合とマルチプレートで並列同架する場合とでは、アリミゾの向きが90度異なります。

*3:ちなみにSXD2の方は、位置指標に関してはSXDと同様です。

*4:その意味では、SXDとベアリング数が同じであるSXD2がどうなのか、気になるところです。

*5:ホームポジションの設定時などにどうしても気になる場合は、動かないように手で押さえていればいいだけの話です。