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ビクセンSXD-ED103Sレビュー


お盆休み中に発注し、8/23には我が家に到着していた望遠鏡「SXD-ED103S」ですが、台風をはじめとする悪天候に連日連夜見舞われ、なかなかまともに使う機会がありませんでした。が、ようやく最近になって夜に晴れ間が出るようになり、少しずつ使い始めましたので、ここらで簡単にレビューしてみようと思います。

…といっても、多数のパーツからなる製品ですから、部分ごとに見て行きたいと思います。

三脚


まずはシステム全体を支える三脚から。今回のセットについてきているのは「SXG-HAL130」で、SX赤道儀シリーズとGP2赤道儀シリーズで共通に使える最新型です。構造としてはカメラ三脚に似ていて、単純に脚をつかんで開くだけで簡単にセットできます。以前使っていた望遠鏡の三脚は、脚を開いた後、脚の付け根にある計6ヶ所のねじを六角レンチで締めて固定しなければなりませんでしたから、それと比べれば非常に楽です。重量も5.4kgと、重過ぎず軽過ぎずで使いやすいところです。
難点があるとすれば、ザラザラとした脚の表面処理のせいか、脚を伸ばそうとしたときに引っかかりを感じることがあること、そして中央にある、開きすぎ防止のための「ベロ」が樹脂製でいささか頼りないことでしょうか。ベロに関しては、この部分につけるアクセサリートレイビクセンマーケティングから発売されていて、これを装着すると三脚自体の剛性を大きく向上させることができます。ただしネジ止めなので、設置の際の手間が増すのが痛し痒しといったところです。

ハーフピラー


鏡筒が長く、三脚と物理的に干渉しやすい屈折望遠鏡のシステムでは、あると便利なアイテム。SXD-ED103Sでは標準装備です。まぁ、実用性云々以前に、ピラーってカッコイイですよね。外で使うものだけに、見栄えは大事です(笑)
小物を置けるスペースは地味に便利。たまに、撤収するときに中に物を置いてあるのを忘れ、中身を落っことしそうになりますが…。

赤道儀


システムの心臓部、SXD赤道儀です。下位のSX赤道儀と比べると、材質が見直されていることなどもあって8.8kgと重いですが、その分、積載可能重量も15kgと大きくなっています。ビクセンの場合、この値は観望を主眼に置いたもので、撮影目的だと半分〜6割程度で考えておいたほうがよいようですが、手元のシステムの場合、ED103Sの全備重量が5.4kgですからカメラやガイド鏡、マルチプレートを載せることを考えたとしても余裕があります。
赤道儀の重量が赤緯体に集中しているのは大きな利点で、これのおかげでバランスウェイトが少なくて済みます。例えば載せるのが鏡筒だけの場合は、1.9kgのウェイトで十分バランスが取れます。バランスウェイトは文字通り「重し」でしかありませんので、少ないのは取り回しの面でもありがたいところです。また、バランスシャフトが伸縮式になっていて赤緯体に格納できるのは、収納時に便利です。
鏡筒との接続は、ビクセンおなじみのアリガタ・アリミゾ。事実上の世界標準ですので、他のメーカーの鏡筒なども問題なく載せることができます(パーツの追加が必要になる場合もありますが)。固定ネジのノブはグリップが大きくて安心感があります。
SXD赤道儀は下位のSX赤道儀ともども、「完全電動」の赤道儀なので、基本的に手動での操作はできません。微動ノブなどがなくて見た目がスッキリしているのはいいのですが、電源が切れると、ただの鉄の塊に成り果てるので、電池やバッテリーの残量管理はしっかりしておいた方がよいです。
で、その電源ですが、赤道儀にはセット品として単1電池8本をセットできる電池ボックスが付いてきます。が、容量が心もとないので、動作確認やお試し程度に使うならともかく、現実的にはバッテリーやAC電源を使うことになるでしょう。バッテリーに関しては、ビクセンからSG-1000というのが出ていますが、定価18900円と高価です。大自工業(Meltec)からは同等品(というか、ビクセンのがこれのOEM品)が出ていて、半額以下で入手できますので、こちらを検討するとよいでしょう。ただし、SXシリーズの電源端子は通常と極性が逆になっていますので、電源ケーブルだけは専用品を買う必要があります。
モーターは赤道儀でよく使われるステッピングモーターではなく、DCモーターが使われています。DCモーターというのは、普通の人が「モーター」と聞いて思い浮かべるアレです。ステッピングモーターは、パルス信号を与えることによって決められたステップ単位で回転するモーターで、回転角度の精密な制御が得意ですが、速度を出すことができません。一方、DCモーターはこれとまったく逆の性質。そのおかげで、自動導入時に「恒星時の1200倍速」という速い速度で望遠鏡を動かすことができます。
しかし一方で、天体導入後の微調整などには問題…というか動き方に独特の「クセ」があります。ステッピングモーターの場合、パルス信号を与えれば即座に信号に応じた量だけ正確に回転し、信号の供給を止めればピタッと止まります。しかしDCモーターの場合…扇風機などを想像してもらえれば分かりやすいですが、回り始めは回転が遅く、一方、止めようとするとすぐには止まらないという特性があります。つまり…


望遠鏡の向きを微調整しようとしてコントローラーのボタンを押す。

動きが小さいかな?と思ってボタンを押し続けると、加速がついて大きく動いてしまう。

止めようとしてボタンから手を放してもすぐには止まらず行き過ぎる。

逆回転させようとしてコントローラーのボタンを押す。

加速がついて…以下繰り返し ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!

といった具合で、細かいコントロールには少々慣れが必要です。また、こうした特性のモーターなので、天体の追尾には少々不利とも言われているようです。これに関しては、自分は未検証なので何とも言えませんが、きょうび、長時間の追尾を必要とする用途ではオートガイダーを使うのが半ば常識化してますし、コントローラー自体はオートガイダーに対応してますので実用上の問題はあまりないのではないかと思います。
なお、モーターの動作音は比較的大きめで、自動導入時には「ギュイーン」といかにもメカメカしい音がします。自動追尾中も「ジジジジ…」となり続けていますが、嫌な感じの音ではないので自分はあまり気になりませんでした。むしろ、いかにも動いているという感じがして安心感があります。ただ、騒音の多い街中で使っているからということもあるかもしれません。静かな場所で使うと周囲の顰蹙を買いそうではあります(^^;

コントローラーである「スターブック」は、見た目こそゲーム機然としているけれど、使ってみると結構便利。特に、私の住んでいる所のような光害地だと、天体を導入しようにも手がかりとなる星が見えませんので、自動導入機能は大変助かります。ただし、自動導入を行う前には、望遠鏡がどの方向を向いているのかを特定するために、指定した星を視野内に導入する「アライメント」という操作が必要になるのですが、「今の視界の範囲内で見えているのは何という星か」、「どれがその星か」、「その星が確かに導入されたのか」を判断する程度の知識は必要になるので、まったくの初心者が使うには少々厳しいかもしれません。「自動導入」という言葉に釣られそうになるかもしれませんが。
スターブックの難点は、左右の十字キーとその下にあるキーとの間隔が狭く、キーの形状も同じなため、望遠鏡をのぞきながら操作すると頻繁にボタンを押し間違えること。キーに突起をつけるなりして、ここはぜひとも改善してほしいところです。あとは見た目ですかね。親しみやすいのはいいんですが、あまりにもゲーム機然としすぎていて、使うのに気恥ずかしさを感じます(^^;

鏡筒


望遠鏡のご本尊ED103S。口径103mm、焦点距離795mm(F7.7)のEDアポクロマート屈折です。フリップミラーを付けた状態で全長が90cm以上になる大きなものですが、反面、重量は装備を含めても5.4kgと軽く、キャリーハンドルもついていて設置に苦労はありません。
肝心の見え味ですが、色収差などはよく補正され、屈折らしい高コントラストの像を楽しめます。今の時期だとちょうど木星が見頃ですが、北赤道縞(NEB)が波打っている様子や、縞の濃淡、薄い縞までよく見えます。
総じて良くできた望遠鏡ですが、惜しい点もいくつか。一つは接眼部で、付属のフリップミラーが光路切替ダイヤルを含め、いかにも安っぽい作りでゲンナリします。しかも、ウチの個体では接眼部取付のネジ山やミラーボックス内に、砂だか樹脂だかよく分からない茶色の固形物がこびりついたり飛び散ったりしてました。掃除で簡単に取り除けたので、実害はなかったんですが…。せっかくの高級望遠鏡なので、性能を引き出すうえでもしっかりした天頂ミラーないし天頂プリズムを装備してほしいところです。フリップミラーで行くにしても、もう少し精密感・高級感がほしいです。カメラと一緒で、手に触れる部分の感触って大事です。
接眼部といえば、ピントノブがやや重めの感触なのも気になります。おかげで高倍率時や撮影時のピント合わせでは、ノブを回すと視野が揺れまくって苦労することになります。以前から思ってるのですが、同じ「モノを拡大する」のであっても、顕微鏡やフィールドスコープには必ずと言っていいほど微動装置がついているのに、天体望遠鏡ではついてないことが圧倒的に多いというのは絶対何かヘンです。一応、後付で微動装置を取り付けることはできますが、デジカメでの撮影など微妙なピント合わせが要求される場面も増えてますし、ピントの微動装置は標準装備にするべきだろうと思います。

そしてもう1つ。これは些細かつ本当に惜しい点なのですが…。
鏡筒のファインダー取付部は、標準では接眼部の左側にあります。この場合、ファインダーは右目で覗くことが前提となりますが、私の場合、利き目が左目で、右目だとかなり覗きづらいのです。で、おそらくそうした事態を見越してなのでしょうけど、接眼部の右側にはファインダー台座を取り付けるためのタップが切ってあります。そこまではいいのですが、じゃあ、ファインダー台座をそちらに移植しようかと思うと、本来の台座は鏡筒と一体成型されていて取り外すことができないのです。右側にファインダーを取り付けようと思えば、別売りの台座を追加で買わなければなりません。定価でも700円ちょっとの部品なので、本当に必要なら買うのもやぶさかではないのですが、ここまでやるなら左側も同じ構造にして、ユーザー側で自由に入れ替えできるようにしたら良かったのではないかと思います。

…と、まぁ、厳しい意見もいくつか書きましたが、いずれも「細かい点をあげつらえば」というレベルであり、総じて満足しています。コストパフォーマンスを考えれば、非常に優秀なシステムだと思います。