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児童ポルノ規制についての追記

頭の中が多少整理できたので、上の話について追記です。
まず第一にハッキリさせておきたいのは、実際の児童を対象物とした「児童ポルノ」と、「マンガ、イラストなどの創作物」とは、持つ意味がまったく異なるという点です。
児童ポルノ」では、実在の児童が被写体となるわけですが、これは児童福祉の観点から大いに問題があります。たとえ本人が望んで*1被写体となったとしても、そのことは必ず「心の傷」として、いかなる形であれ、将来にわたって影響が残るでしょう。そうしたことのないように…つまり、児童の保護のために「児童ポルノ」は規制されるべき、と私は考えます。このことに関しては、異論はあまりないのではないのではないでしょうか。
しかし、マンガやイラストなどの創作物の場合、上記のような意味での「被害者」は存在しません。つまり、この考え方を根拠に規制するのは無理だし、無意味です。
では、何が根拠になるか?規制派の意見としてはおそらく「児童ポルノ的なマンガやイラストが児童に対する犯罪を助長している、あるいは助長しかねない。だから規制すべきだ」といったあたりが代表的なものではないでしょうか?つまりこれは、創作物と犯罪との間に相関関係があることを前提にした議論です。
しかしよく考えてみてください。実際にそんなことがありうるでしょうか?もし創作物と犯罪の間に相関関係があるのなら、TVのゴールデンタイムに連続殺人を扱ったサスペンスドラマが何本も放送されている今頃は、世の中は殺人犯だらけです。また、「ルパン3世」や「キャッツアイ」のアニメが放送された時期に泥棒が増えたという話も寡聞にして知りません。そう、大多数の人は、創作物は創作物として楽しみ、現実世界とは切り離して考えるものです。一方で、創作物と現実の区別がつかないような人は、おそらく創作物などなくても、自分の妄想力だけで犯罪を実行に移すでしょう。創作物と犯罪が即座に結びつくと考えるのはあまりに短絡的ですし、人の判断力をあまりに馬鹿にした議論です。
また、創作物には「現実の代替物」という側面があることも見逃してはなりません。フィクションだと分かっているからこそ、そこで安心して自分の欲望を発散できるということもあるのです。ここで創作物を規制すれば、品行方正・謹厳実直な「美しい創作世界」が出来上がるでしょうが、フィクションの世界にはけ口のなくなった欲望がどういった形で噴出するか…いろいろな意味で、かえって不健全でやっかいなことになりそうな気がします。
いずれにせよ、国が表現内容に直接的に関与してくるというのは、よい傾向ではありません。今回の場合は、創作物の内容が確かに褒められたものではない部分もありますから、規制すべきだという声が上がるのも分からなくはないのですが、一度前例を作ってしまうと、同様の文脈で、他の表現物にだって規制をかけられかねません。例えば「反政府的な内容を扱った創作物は、反政府テロを引き起こしかねないから規制すべきだ」とか…。決して冗談ではなく、こうした危険性は十分に認識すべきです。
ただし、判断力が大人に比べて弱い子供*2の場合は、ちょっと事情が異なります。しかし、このあたりは販売の時点などで、いわゆるゾーニングを徹底することで対応できるのではないでしょうか。身分証明やクレジットカードの活用など、子供のアクセスを遮断する方法は色々とあるはずです。

*1:また、例えば金銭的な問題などのために親が望み、子供が無意識のうちにそれを感じ取って、期待にこたえようとするあまり「自分の望み」と思い込んでしまうようなケースもありうるでしょう。むしろそちらのほうが深刻ともいえます。

*2:まぁ、最近は判断力の弱い「大人」も増えているような感じはしますが…これは創作物の影響云々というよりは、社会経験を含めた育ち方の問題でしょう。創作物の規制と絡めて議論する話ではないように思います。