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双眼鏡選びの憂鬱

このところ、鳥見に出かける機会がよくあったんですが、そのたびに気になっていたのが今使っている双眼鏡のこと。
現在愛用しているのは、ビクセンの「アルティマ Z10×42(W)」という機種で、使い始めてかれこれ20年近くにもなります。当時のビクセンの双眼鏡ラインナップの中では最上位に位置した機種で、丁寧な全面マルチコート処理もあって、その見え味には定評がありました。今でも、その見え味にはいささかの衰えもなく、手にもなじんでいて不満はほとんどない状態です。
とはいえ、さすがに20年もたつとガタがくるもの。特に深刻なのは接眼部のゴム見口。私は常時メガネをかけているんで、双眼鏡をのぞくときにはゴム見口を外側に折り返すんですが、このゴムが年月とともに劣化して、2〜3年くらい前にとうとう見口がちきぎれてしまいました。

(右側は見口が半分以上切れ、左側は完全にちぎり取れてしまっています。)
まぁ、自分で使う分には、どうせ見口は常時折り返した状態なんでちぎれていてもまったく支障はないんですが、人に渡したときがどうにも困るわけです。第一、格好悪いですし(^^;
というわけで、最近、お店でカタログをもらってきたりして双眼鏡を物色してるんですが、ラインナップが昔とあまりに様変わりしていて、正直ビックリしました。
ここで突然ですが双眼鏡の基礎知識。双眼鏡には、中に組み込まれているプリズムの形によって「ポロプリズム型」と「ダハプリズム型」の2種類があります。構造に関してはこちらのページなどに詳しいですが、一般的にポロプリズム型は本体がかさばるが、光学的な性能が安定していて安価、一方、ダハプリズム型は本体は小型にできますが、プリズムの研磨や組み上げ、コーティングなどに高度な技術が必要で、その分高価です(おおむね、同クラスのポロプリズム型の1.5〜2倍以上)。
で、各社のカタログを見ていると、レンズのコーティングなどの仕上げが上等な機種は、ほとんどがダハプリズム型になっていて恐ろしく高価なのです。ポロプリズム型で同等の仕上げなら、もっと安価かつ容易に同等以上の性能が出せるはずなのですが、ポロプリズム型の新機種はほとんどがスタンダードクラス以下のものばかり。例えばビクセンのラインナップを見ると、私が使っているアルティマシリーズは、当時6機種ほどがラインナップされていたものがわずか3機種に減り、メインで販売されているポロプリズム型はレンズなどの仕上げが(少なくともカタログを見る限りでは)アルティマより劣っています。他社も、最新鋭機は大体がダハプリズム型。ポロプリズム型はスタンダードクラスと、10年以上前から販売され続けているような機種ばかりです。
ダハプリズム型なら小型になるんだからいいんじゃないの?と思われるかもしれませんが、口径が40mmを超えるくらいになってくると、対物レンズ自体が大きいために、それほどご利益はありません*1。また、構成するパーツ自体はほとんど同じですから、重さも大差ありません。
また、もう1つ気がつくのは、防水タイプの双眼鏡が非常に多くなったこと。アウトドアだと防水のほうが安心感がありそうですが、一方で機密性を高めるために重量が増加し、価格も高くなります。実際には双眼鏡は雨の日にはまず使わないものですし、私自身、過去20年間非防水タイプのものを使ってきたわけですが、困ったことは一度もありません。
つまり、造りのよい新型機を買おうとすると、あまり必要性のない防水機能がついて重い上、それほど大きなメリットがないのに光学的にわざわざ難しいことをやって高価になっているダハプリズム型のものしか選択肢がないわけです。
こうなってしまった原因は、どうやら競争の激しさにあるようです。現在では、どこのメーカーも一定以上の製造技術を有していますから、もはやポロプリズム型では差別化ができないということなのでしょう。しかし、そこで各社、雪崩を打つようにダハプリズム型の強化にばかり走ってしまっているのがユーザーとしては困るところ。ポロプリズム型なら、同等の光学性能を出した上でより安価にできるので、サイズが少々大きくても需要はあるはずなんですが…。結局、各社の横並び意識が強くて、ユーザーを見ていないということかもしれません。
この構図、ちょうどデジタルカメラのそれと似ていますね。ハイエンドコンパクトが駆逐されて、低価格コンパクトと一眼に二極化したのとそっくりです。ポロプリズム型の双眼鏡とハイエンドコンパクトを愛用してきた自分には踏んだり蹴ったりですが…(^^;;;
さて、そうは言ってもないものは仕方がないので、ダハプリズム型のものも考慮に入れて機種を考えてみることに。評判としてはスワロフスキーのEL8.5×42WBなどは素晴らしいものがあるのですが…元々の価格が高い上にユーロ高も加わってものすごいことにっ!30年保証がついた一生モノとはいえ、さすがに双眼鏡1つに28万円はちょっと…orz

*1:なお、ポロプリズム型では、光学的な制約からプリズムの大きさを、レンズの大きさに対してある程度のサイズ以下にはしづらいので、対物レンズの口径が小さいほど、ダハプリズム型の小型化のメリットが出てきます