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CP+ 2017

今年もCP+が23日から開催。というわけで、週末になるのを待って行ってきました。例年通り、天文関連製品中心のレポートです。

ビクセン

まずは、去年大量の参考出品を行ったビクセンです。今年は望遠鏡関連のゾーンがまとめて会場端に追いやられていて、ブース自体も小ぢんまりとした感じです。

社長さんもTwitterで言及していた、ある意味注目の製品がこれ。GP系赤道儀にSTARBOOK TENを接続したものです。


一見、単にパルスモーター化しただけのように思えますが、実際にはユニットをあのサイズに抑えるために基板の小型化などでかなりの手間がかかっているそうです。また、駆動についてはベルトドライブを採用していているとのこと。

GP系には、以前「スカイセンサー」や「STARBOOK Type-S」といった自動導入システムがありましたが、これら旧製品を除けば自動導入の手段は純正では存在しません。自動導入を使いたい人は、EQ5のGOTOキットを取り付けるなど他社製品に頼らざるを得ない状況です。ここでもし、純正の高性能自動導入のソリューションがあれば……購入したいという人は一定数いそうな気はします。


しかし、STARBOOK TEN自体がそもそも10万円と高価な上に、モジュールもかなりのコストがかかっていて、もし製品化できたとしても今のままでは、かなり可愛げのない価格になるのはほぼ確実です。GP系自体は非常に長い期間売られていた製品なので、インストールベースは相当の数があるはずですが、実際に購入へと動く数となると……。しかもGP系はすでに終売していますので、赤道儀販売への相乗効果も見込めません。*1

社長も仰っていましたが、新規に金型を起こすとなると出荷数が100個とかいうわけにはいかない*2わけで、そう考えると、顧客ロイヤルティを引き上げる効果が多少見込める可能性があるとはいえ、少なくとも単発の商売としてはかなり難しそうな気はします。個人的には頑張ってほしいし、できたらすごいとは思うのですけど。


なお、上の写真で赤道儀に乗っている鏡筒は参考出品の「SD81S」。現行のED81SIIの改良版です。外見ではフードのロゴの向きや鉢巻の色が変わっている(青→シルバー)以外に違いはなさそうに見えますが、ドローチューブ内の絞り環が改良されていて、周辺光量が豊富になっています。これは、特に下記の製品と組み合わせたときに威力を発揮します(後述)。

ちょっと残念なのは、せっかくの新製品なのにレンズ間隔調整用の錫箔が光路上に飛び出している問題がそのままのこと。要改良点として認識はされているようですが、露骨に星像に悪影響が出るので、早期に何とかしてほしいところです。


製品化間近の「SDレデューサー HDキット」です。焦点距離を延ばさずに周辺像を改善するフラットナーと、倍率0.79倍の新型レデューサーとのキットで、上記のSD81Sと組み合わせることでフルサイズ対応の写真鏡となります。周辺光量はフルサイズの一番端でも60%程度は確保しているとのこと。なお、フラットナーは単体使用も可能です。


従来のED103SやED115Sにも使用可能ですが、ドローチューブ内の絞りの構造がSD81Sとは異なるため、そのままではフルサイズ判使用時の周辺減光が大きくなります(APS-Cではほとんど問題なし)。これについては、以前コレクターPH発売時にR200SSのオーバーホールキャンペーンがありましたが、同様の施策でドローチューブの交換サービスを行うことを考えているとのことです。

従来品のスポットグラムと比較すると、その性能差は一目瞭然。従来品は安価で買いやすいのはいいものの、周辺減光を含め、性能的には決して褒められたものではありませんでした。こうした高性能品の選択肢ができるのはいいことだと思います。


こちらはR200SS用の高性能補正レンズ第2弾「エクステンダーPH」。これも製品化は間近のようです。焦点距離を800mmから1120mmへと1.4倍します。焦点距離が1000mmを超えてくると、系外銀河などもそれなりの大きさで写ってくるので、楽しみ方の幅が広がりそうです。

スポットグラムも優秀で、かなり期待できそうな感じです。


こちらは参考出品の鏡筒2本。FL55S(口径55mm、焦点距離300mm)とSD70S(口径70mm、焦点距離400mm)です。昨年、「FL55mm F5.5」という鏡筒が参考出品されていましたが、前者はこれの完成度を上げてきたものだと思われます。後者はED70SSと同じ光学系でしょうか?口径や焦点距離のスペックが同一です。

デザインはかなり個性的で、好き嫌いが分かれるかもしれません。フードは伸縮式で、非常にコンパクトになるので持ち運びには便利でしょう。


今年のビクセンブースで目立ったのはこのあたり。AXJ赤道儀については、残念ながら昨年からのアップデートはほとんどなし。開発にはまだしばらくかかりそうです。


そうそう、社長からビクセンのステッカーと双眼鏡の割引クーポンを頂きましたが……早速のサーバル柄w すごーい!せっかくだから動物園+双眼鏡を押してもいいんじゃないかな?

トミーテック

先日、一気に23種類ものセット商品をカタログに追加したトミーテック(BORG)。昨年あたりから「天文回帰」ということをしばしば口にされていましたが、それが具体化した形です。

展示は主にこれらの新製品。詳細はカタログを見ていただいた方が早いでしょう。


社長の中川さんと少しお話させていただきましたが、鳥撮りを目的とした需要はある程度一巡したようで、またカメラ各社が比較的低価格で高性能な望遠レンズを投入してきていることもあって、「望遠レンズ」としての売り上げは頭打ち気味なところがあるようです。それもあっての原点回帰。改めて望遠鏡としての魅力を発信していこうという姿勢を感じました。

実際、普通の人は双眼鏡や望遠鏡といった光学製品を夜空に向けるという体験自体をしたことがほとんどなく、結果として、そうした光学系を持っていても利用すること自体を思いつかないという面があるようです。BORGの場合も同様で、「望遠レンズ」として買った人が、果たして望遠鏡としての使い方に思い至るかどうか……。ここをなんとか掘り起こすことができれば、まだまだ市場は広がるような気がします。

ニコン・イメージング

ニコンの双眼鏡、フィールドスコープを扱う部門は、カメラ部門とは別にブースを構えています。

ここで一番目立っていたのが、参考出品の広視界双眼鏡。7×50と10×50があって、見かけ視界は前者が66.6度、後者が76.4度もあります。覗いてみると、アイポイントの高さと視界の広さ、歪みの少なさを高いレベルで達成していて、非常に優秀な双眼鏡なのは間違いないです。

ピント合わせはIF式。フィールドフラットナーを内蔵しており、鏡筒1本あたり3枚のEDレンズを使用と、非常に贅沢な作りになっています。これだけしっかりしたものだと予想される価格もかなりのもので、少なくともスワロフスキーの最上位機種とタメを張るくらいの価格になりそうとのことでした。

作りの良さを考えれば、妥当なところだろうと思います。買えないけど。

ケンコー・トキナー

ケンコー・トキナーのブースでは、昨年に引き続き「スカイメモT」が参考出品。WiFiを使う機器ということで認可等に時間がかかったようですが、ようやく発売間近というところまでこぎつけたようです。


望遠鏡の並びには、新型のフリーストップ経緯台が。スタイルとしてはほぼポルタIIと同じですが、耐荷重は9kgと、ポルタIIの搭載可能重量5kgに比べると大きくなっています。そのかわり、重量は架台が2.26kg、三脚が6.1kgとかなりあるので、手軽さでは劣る感じでしょうか。

サイトロン

サイトロンのブースでは、セレストロンの新赤道儀CGXが展示されていました。搭載可能重量は25kgで、見るからに武骨で頑丈そうです。特徴としては、三脚の上で架台部分のみを前後にスライドさせることができる点。この機構により、低緯度地域や高緯度地域でもシステム全体のバランスやバランスシャフトと三脚の干渉を気にしなくてもよくなっています。全世界で展開するメーカーらしい気遣いです。

なお、今回展示はありませんでしたが、これのもう1つ上には搭載可能重量34kgのCGX-Lが、下には同18kgのCGEM IIがあります。着実に新しい製品を投入してくるあたりはさすがです。

スリック

三脚メーカーとして知られるスリックが、なんとポータブル赤道儀に参入してきました。現在はまだ参考出品扱いですが、ナノトラッカーに匹敵ないし上回る(下回る?)ほどのコンパクトさです。具体的な寸法は54mm×80mm×80mm、重量450g、最大搭載荷重は5kg(軸荷重)。マイクロUSBからの給電または単三電池4本で駆動し、駆動時間は20℃、アルカリ電池使用時に2時間とのこと。赤道儀としての動作モードは恒星、月、太陽時、さらに0.5倍の星景モードを備えています。南天、北天の切り替えも可能で、基本は押さえてある感じです。

極軸合わせはナノトラッカーなどと同様、本体に設けたのぞき穴で北極星を捉えて行う方式。最初からタイムラプス撮影への対応を入れ込んでくるあたりは、いかにも非天文機器メーカーです。タイムラプスについては、1.5時間/周、3時間/周、6時間/周、12時間/周、24時間/周、48時間/周の回転速度を備えています。


あわせて、微細な傾きを調整できるレベラーも用意していました。かなり本気です。


また、上の写真のベロのようなパーツですが、ギアに挟まれているパーツの底面にはカメラネジ用のネジ穴がついていて、このパーツ自体はスイングするようになっています。これをレベラーのカメラ取付面につけてネジを締め上げると、ギアの部分が取付面に食いつき、ベロの部分を任意の角度で固定することが可能になるというわけです。いわば「可変型アングルプレート」とでもいうパーツ。

固定力がやや不安ですが、上記のポタ赤との組み合わせなど、軽量なシステムであれば十分機能するでしょう。


しかし……よく考えたら「スカイメモ」のケンコー・トキナーも「ナノトラッカー」のサイトロンも同じグループの会社なわけで……カニバリゼーションが起きそうですが、大丈夫でしょうか……?(^^;

STC

台湾の光学フィルターメーカーです。寡聞にして会社名を知らなかったのですが、そういえばロゴは最近見たことあるような……。

中国メーカーの躍進が著しいのは今に始まった話ではないですが、ここの製品も興味深いもの。天文関係だと、一般的な光害カットフィルターに加え、「Astro Duoナローバンドフィルター」というものが展示されていました(写真左側)。これはOIIIとHαのみを通すというもので、あまり他に例を見ない気がします。散光星雲や惑星状星雲、超新星残骸の撮影に威力を発揮しそうです。


様々なフォーマットが用意されているのもうれしいところで、通常のフィルターのほかに、マウント内に装着するものがキヤノンAPS-C用、同フルサイズ用、ニコンフルサイズ用、ソニーα7用と揃っています。キヤノン用のフィルターは他社製品でもいくつかありますが、それ以外のものはあまり見かけないので、貴重な存在かと思います。


このほかユニークなものとしては、電熱で結露を防ぐプロテクターフィルターも。フィルターの温度と気温を常に監視し、フィルターが常に「気温+5℃」になるようにコントロールします。温めるのはフィルターだけなので消費電力も比較的小さいようで、なかなか賢いやり方だと思います。

ペンタックス

これはおまけですが、ペンタックスブースの片隅にMS-3N赤道儀と75SDHFと思しき鏡筒が。接眼レンズの性能確認用として置いてあったようですが、今見ても実にカッコいいです。ペンタックスさん、復活しませんかね……。


天文関連でめぼしいところというとこんなところでしょうか。しかし、カメラメーカーを筆頭に、各社の発表が今年はやや小粒だった印象がある一方、改めて見返してみると海外メーカー……特に中華系のメーカーの出展が全体としてずいぶん増えた印象があります。数年前からこんなものだったかもしれませんが、プレゼンスが高まってきているのは確かです。

海外製品とフラットに比較されてしまう現在、既存のやり方でこれまで成功していたとしても、これを墨守しているだけでは文字通りひねりつぶされかねません。手垢の付いた話ではありますが、より一層、新たなチャレンジが必要とされるところだろうと思います。

*1:せめてGP系がラインナップに残っているうちに出ていれば……というところですが、開発リソースと優先度を考えると難しかったのは容易に想像できます。

*2:理想的には4桁はほしいところだとか。