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久々の月面モザイク

金曜、土曜は月齢がやや大きかったものの、よく晴れたので連続出撃してきました。金曜は月没を待って系外銀河を撮ったのですが、こちらは未処理なので後回しにするとして。


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土曜は久しぶりに月面を狙いました。というのも、先日Topaz LabsのSharpen AIの検証やImage Composite Editorの入手先を調べたりした際、メインの動画カメラをASI120MMからASI290MMに変更した後、長らく月面の撮影をやっていなかったことに気づいたためです。撮ったのは実に5年近くも前のこと。
hpn.hatenablog.com


というわけで、L画像は上記の通りASI290MMを使って撮影します。この時、シーイングの影響を多少なりとも改善するため、OPTOLONGのNight Sky H-Alphaフィルターを用いています。このフィルターは640nm以上の波長の光のみ通すバンドパスフィルターで、現行品だとSIGHTRONのIR640 PRO IIとほぼ同等の性能です。


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ASI290MMを焦点距離2032mmのEdgeHD800と組み合わせると、当然ごく狭い範囲しか写らないので、上記のように望遠鏡をジグザグに動かして月面全体をカバーしていきます。


しかしこの日は予想以上に地上の風が強く、撮影中にしばしば望遠鏡が揺すられます。

youtu.be

こんなに揺れてしまっては、さすがにまともな結果は望めません。「風の息」を読み、なるべく無風の瞬間を狙って撮影していきます。撮影時間は領域あたり高々15秒ですが、こんな撮り方だったので予想以上に時間がかかってしまいました。


なお、15秒の動画といっても、16bitかつ無圧縮のSERで記録すると、ファイルサイズは3GB以上にもなります。ノートPCのディスク容量が少なめだとあっという間にいっぱいになってしまうので、適宜外付けのポータブルディスクにデータを移す必要が出てきます。



一方、カラー画像はフリップミラーのもう一方に取り付けたデジカメで。LRGB合成を前提とする場合、カラー情報には解像度が要らないので、ワンショットでカラー画像が得られるこれで十分です。以前、ASI120MCを使ってモザイク撮影してみたこともあったのですが、無駄に手間はかかるし色再現性は悪いしで、いいことがまったくなかったのです。それ以来、月面についてはカラー情報はデジカメを利用しています。カラーバランスを太陽光にしておけば、簡単にいい感じの色合いが一発で出てくれます。


撮影後、L画像の方はAviStack2に放り込んでバッチ処理します。AviStackとAutostakkert!、Registaxの優劣についてはいろいろ言われていますが、おそらくそれほど大きな差はないだろうと思います。このあたりは個々人のお好みで。処理後はImage Composite Editorを使って画像を繋ぎ合わせ、別途撮影したカラー画像とLRGB合成して完成です。


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2022年4月9日 セレストロンEdgeHD800(D203mm, f2032mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=75, 10ms、各々15秒分をスタック後、モザイク合成
RGB画像:EOS KissX5, ISO200, 1/125秒×16コマ

結果、6000×9000ピクセルもの巨大画像になりました(笑) 実寸画像はこちら。
https://urbansky.sakura.ne.jp/images/gallery/moon220409.jpg

さすがにこれだけのサイズになると見ごたえ十分で、1km程度のサイズのものも存在が十分に判別できます。


なお、ASI120MMのピクセルサイズが3.75μm、ASI290MMのピクセルサイズが2.9μmなので、解像度的にはASI290MMの方がより細かいものが見えることになります。太陽の光の当たる角度が違うので直接の比較はしづらいのですが、今回の方がより細かいところまで写っているような気がします。


本当の限界まで突き詰めるなら、EdgeHD800(口径203mm、焦点距離2032mm)の遮断空間周波数*1が200mm-1、ASI290MMのナイキスト周波数*2が172.4mm-1なので、2倍以上のバーローを挟めば完璧ですが……これ以上画角が狭まると撮るのも処理するのも面倒すぎるので却下でしょうかね。


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こちらはオマケで、カラーの彩度を上げたもの。溶岩の成分の違い(鉄が多いと赤っぽく、チタンが多いと青っぽくなる)や、新鮮な地形(青白い部分)がよく分かります。

*1:その光学系がどれだけ細かい明暗模様を見分けることができるか(1mmあたり何組の明暗模様を見分けられるか)を示す値で、ν = 1/λF = D/λfで求めることができます(単位はmm-1)。ここで、D:対物レンズの口径(mm)、f:対物レンズの焦点距離(mm)、F:対物レンズのF値、λ:光の波長(mm)をそれぞれ表します。

*2:画素間の間隔(画素ピッチ)によって記録できる明暗模様の細かさを表す値で、νn = 1/2dで求めることができます(単位はmm-1)。ここでd:画素ピッチ(mm)です。

「春の銀河祭り」と、光害と、LED照明

先週末、一晩中晴れ間が広がるという予報だったので、宵のうちからいつもの公園に出撃してきました。


もっともWindyの予想を見ると、晴れではあるものの、特に夜半前は5m/s以上の風が吹きそうだったので長焦点鏡の運用は難しそう。可能なら系外銀河のクローズアップなんかも……と思っていたのですが、そこは諦めることにします。


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さて、夜半前はミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55で……というところだったのですが、これについては後回しにするとして


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夜半過ぎからは鏡筒をED103S+レデューサーHDに載せ替えて、おとめ座銀河団の「マルカリアンチェーン」を狙います。


この付近は5年ほど前に撮影したことがありますが、当時は使用していたのがデジカメだったこともあり、淡い部分の表現に難がありました。季節的にも春霞や黄砂の時期でしたし、改善を期待したいところです。
hpn.hatenablog.com


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午前3時を回ると、東の空からは早くもさそり座が。ついこの間まで冬の天体が撮り頃だったというのに、季節の移り変わりは本当に早いものです。このあと、夜明けが近づくと雲が出てきたので、そのタイミングで撤収です。



ちなみにマルカリアンチェーン、撮って出しだとこんな感じ。


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小さくて確認しづらいですが、明るい系外銀河はこの時点でハッキリ写っていますし、それなりに期待できそうです。レベル調整とフラット補正&カブリ除去後、シャープネス処理等々強調処理を行って……こう!


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2022年2月28日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
ZWO ASI2600MC Pro, -20℃
Gain=100, 600秒×21, IDAS LPS-D1フィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0dほかで画像処理、一部トリミング

今回はちゃんとNGC4438の歪んだ腕、NGC4388やNGC4402の暗黒帯も捉えられているし、まずまず満足です。とはいえ、東京都心の激烈な光害の中からだと、連続スペクトルで輝く対象はやはり難物なのは確かですね。


ちなみに、系外銀河の名前などを書きこんだのがこちら。


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天の川の薄い方向だけに、この狭い範囲内だけでもおびただしい数の系外銀河が写りこんでいます。ここでPGCから始まる銀河は、いずれも暗く小さいものばかりで、地球からの距離にして数十億光年離れたものも少なくないはずです。


失敗だけど……失敗じゃなかった!orz


さて、夜半前に撮影していた対象についてですが、1月31日に撮影していたカモメ星雲ことIC2177です。実はこの時の撮影に一部失敗していて、その撮り直しです。
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このときは前半にHα、後半に通常のカラーを撮り、合成する予定で作業を進めていました。


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Hαの方は、ほぼ思った通りに撮れた*1のですが……問題はカラーの方。


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これはコンポジット&カブリ除去後の画像ですが、画像全体に斜めに走る妙なカブリがある上、「カモメ」の翼内側に明らかに不自然な暗斑が現れています。この時点で、まず疑ったのはフィルターケースのドロワーの装着不良でした。ドロワーがきっちり押し込まれていなかったため、隙間から迷光が侵入したのではないかと疑ったのです。


そこで今回は、ドロワーが正しく挿入されていることを何度も確認しながら撮影に臨みました。さすがにここからの迷光はもうないはずです。


ところが、撮ったカラー画像をフラット補正後にコンポジット&カブリ除去してみると……


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前回とほとんど同じようなところに暗斑が現れています。


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フラット補正の失敗かとも思ってフラットフレームを確認しましたが、特に異常もなく滑らかなものです。ちゃんとフラット化できたかどうかコンポジット前のライトフレームを確認したときにもこれといって……いや、確認していないライトフレームはどうだったでしょう?


試しに、フラット補正のみ施したライトフレームのRチャンネル*2のみ抜き出してみると……


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あああっ!時間の経過とともに暗い影がハッキリと写りこんできています。しかも、天体に対する影の位置が時間とともに変化していることから、フィルターケースやカメラ側からの迷光ではないでしょう。ああ……このパターンは見覚えがあります……( ̄w ̄;ゞ
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以前、アンタレス周辺を撮影しようとしたときに、全く同じ状況になったのでした。ということは、今回もまず間違いなく南側のLED照明が原因でしょう。しかし……アンタレス周辺は南中時でも30度以下という低さなので影響を受けるのはまぁ分かるのですが、対するIC2177は南中時に40度以上。そんなに影響を受けるものでしょうか……?


原因推測


まず、画像に暗斑が現れるタイミングを見てみます。そう、撮影序盤は一様にカブっているだけで、特に異常はなかったのです。


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これは最初の1コマ、19時13分のものですが、都心らしく無茶苦茶カブっている点を除けば、カブリのパターンは一様で素直なものです。


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そして、こちらは20時2分のもの。このあたりから暗斑が目に付いてきます。これ以降は不均一なカブリが常に画像上に載り続けるわけです。



ところで、LED照明が原因だとすれば、その光は当然筒先から入ってくるわけですが……曲がりなりにもフードがついているわけですし、役には立たなかったのでしょうか?


ちょうどいいことに、トミーテックのサイトにミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55の構造図が載っていたので、これを拝借して検討してみると……


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案外フード短っ!これでは、単純計算だと対物レンズに対して約45度以内の角度で入射してくる光は遮ることができません。


逆に言えば、LED照明から角距離にして45度以内の領域では、影響を受ける可能性が否定できないわけです。そこで、実際のLED照明の位置、高さをステラナビゲータの星図上に書き込み、半径45度の円を描いてみます。この円内では、LED照明の光が直接望遠鏡内に入ってきて、画像に影響を及ぼす可能性があるわけですが……。


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各撮影時刻におけるおおいぬ座およびIC2177の位置。中央の棒と白点はLED照明。白文字は撮影時刻。


ビンゴ!(T▽T) 画像に影響の出始めた20時ごろから、見事にLEDから45度以内に入ってきています。つまり「フードが短いためLED照明からの直射光を遮断できず、画像が影響を受けた」という推測でほぼ間違いないでしょう。推測がきれいに決まり、原因も明確になってスッキリしましたが、ちっとも嬉しくないのは気のせいでしょうか……?(- -; しかし、思った以上に広範囲に影響が出るものです。


ともあれ、原因が分かってしまえば対策は簡単。まずはフードの延長からですかね。次善策は撮影場所の変更ですが……少々遠かったり、行くまでにアップダウンが激しかったり*3、治安面でやや不安だったりと一長一短。フード延長だけでカタがついてくれると簡単なんですが……。

*1:改めてよく見ると、後述のカラー画像と同じ現象が発生しているようにも見えます。

*2:もっとも暗斑が顕著だったので。

*3:台車での人力運搬なので無視もできません。

Image Composite Editorの入手先

前回、月面写真へのSharpen AIの適用可否についてあれこれ検証しましたが、この時に使った月面写真は、月面全体をモザイク合成で捉えるために撮影したものでした。


ちなみに、最終的に仕上げたものはこちら。


このモザイク合成にはマイクロソフト謹製の「Image Composite Editor」(ICE)を使いました。無料にもかかわらず非常に高性能で、愛用している方も多いと思うのですが……なんとこれが、いつの間にやら公開終了になっているとの情報が!
soranoosanpo.net


調べてみると、たしかに研究プロジェクトそのものが終了していて、公開も終わっていました。今まで気が付かなかっただけで、どうも結構前に非公開になっていたようです。なんてこったい……orz
www.microsoft.com


自分は幸い、過去にDLしたときのファイルが手元にあるので、もしPCの乗り換えなどが発生しても何とかなりますが……これからモザイク合成を試してみようという人にとっては死活問題です。ICEの代わりになるようなフリーウェアがないかどうかもちょっと調べてみましたが、片っ端からインストールして試してみても、枚数やサイズに制限があったり、性能がビミョーだったりと、どうにもうまくありません。


しかし、海外にも同じく困っている人がいたようで、マイクロソフトのフォーラムを覗いたらそのものずばりのスレッドが。
docs.microsoft.com


曰く、Internet ArchiveからDL可能だとか*1。一応、こちらにもリンクを張っておきます(ファイルへの直リンクなので、踏むとダウンロードが始まります)。ただし、当然のことながら公式には公開終了していますので、すべては自己責任ということでよろしくお願いします。


64bit版:
https://web.archive.org/web/20190223050207/https://download.microsoft.com/download/7/3/9/73918E0B-C146-40FA-B18C-EADF03FEC4BA/ICE-2.0.3-for-64-bit-Windows.msi
32bit版:
https://web.archive.org/web/20190309221948/https://download.microsoft.com/download/A/7/8/A7804C73-ECDB-4459-BB3E-A7F13C4C5382/ICE-2.0.3-for-32-bit-Windows.msi


本ソフトのように公開が終了したソフトウェアも、Internet Archiveを漁ってみると案外入手可能だったりするので、諦めずに探してみるといいと思います。まぁ、一番いいのはDLしたファイルを手元に取っておくことなんですけど。

*1:念のためですが……Internet Archiveは過去の時点でのウェブサイトの情報を収集・公開している非営利の団体です。以下のURLも、まさに過去の時点でのマイクロソフトのサイトのデータそのものなので、ファイル自体は真正です。