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望遠域で使えるソフトフィルター

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昨日のエントリーの系外銀河を撮影している裏で、実はもう一つ実験をやっていました。ソフトフィルターの比較です。


先日プレセぺ星団 M44を撮影した際、レンズの結像性能が「良すぎて」星がほぼ完全な点像になってしまい、すさまじく地味になってしまったことがありました。
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こういう場合、星野写真や星景写真ではソフトフィルターを用いて輝星ににじみを生じさせ、星の存在感を強調&星の白飛びを防ぐという手段を使うのが普通です。実際、広角レンズでの撮影では非常に効果的に働きます。
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ところが、ソフトフィルターの効果はレンズの焦点距離が長くなるほど大きくなるため、数百mmもの焦点距離になると効果が強すぎて不自然さの方が大きくなります。以前、ミニボーグ60ED+マルチフラットナー1.08×DG(焦点距離378mm)+EOS KissX5の組み合わせに対し、上のおうし座の写真でも使用した「PRO1D プロソフトン[A](W)」フィルターを用いてM44を撮ったところ、まるで反射星雲がまとわりついたかのような描写になり、閉口した覚えがあります。
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そこで今回、ケンコー・トキナーから発売されている「PRO1D プロソフトン クリア(W)」を入手して、望遠域での効果を試してみることにしました。


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このソフトフィルターは、同社のソフトフィルターの中では「ブラックミスト No.5」に次いで効果の弱いもので、「プロソフトン(A)」の約半分の効果を謳っています。これだけ効果が弱ければ、望遠域でもある程度使えるかもしれません。


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比較対象は、同じケンコー・トキナー「PRO1D プロソフトン[A](W)」*1。上でも使いましたが、星野・星景写真用として定評のあるものです。これらと「ソフトフィルターなし」の場合とでM44を撮り比べ、その効果を比較します。鏡筒はミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm)を用いました。


ISO100で60秒×8コマをそれぞれ確保し、フラット補正、カブリ補正を行った後、ほぼ同様のレベル調整を行って出てきた結果がこちらになります。


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(↑クリックで拡大します)

まず「ソフトフィルターなし」のものですが、例によって猛烈に地味です。M44を中心に、星座絵で「カニの甲羅」を形作る星が台形に囲んでいるのですが、明るい星も暗い星も同じように点像なので、星座の星が埋もれてしまいメリハリがありません。おまけに星の色もほぼ飛んでしまっているため、白い点々が散らばっているだけの地味な絵になってしまっています。


一方、右の「PRO1D プロソフトン[A](W)」を使ったものでは、星が大きくにじんでいます。一見派手ですが、星団内の7等近い暗い星まで大きくにじんでいるため、光芒が星団を取り巻いてまるで反射星雲のよう。上でも書きましたが、これはさすがに「やりすぎ」です。また、強いソフト効果の影響で、微光星がとろけて数が減ってしまっているのも気になるところ。絵全体としてはちょっと寂しい印象も受けます。


「PRO1D プロソフトン クリア(W)」の結果は、「ソフトフィルターなし」と「PRO1D プロソフトン[A](W)」のまさに中間といった感じ。光芒の大きさは小さいものの星の色もしっかり出ていて、それでいて星団内の星はにじみがかなり抑えられています。光芒がハッキリ出るのは5~6等台くらいまでのようで、しかも光芒自体が比較的おとなしいですから、小さい星座や散開星団を撮るのにはかなり使いやすそうです。



……というわけで、少なくとも35mm判換算300mmくらいまでなら、「PRO1D プロソフトン クリア(W)」はかなり有効に使えそうです。

*1:67mm径なのは、PENTAX-DA 17-70mmF4AL[IF] SDMに合わせた結果。今回は変換アダプターを介してBORG55FLに装着しています。

春の銀河祭り&都心の天の川チャレンジ


この週末は、実にほぼ1か月ぶりの好天。Windyの予報でも曇る心配はほぼなさそうだったので、日没後からいつもの公園に出撃してきました。

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……って、晴れる予報じゃなかったんかい!orz


到着して空を見上げてみると、このあたり一帯だけ雲が被っています。それでも20時ごろにはどうにか雲が取れてくれたので、機材を展開して撮影開始です。


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この日の主砲はED103S+レデューサーHD(焦点距離624mm)。これにIRパスフィルターとASI290MM/MCを組み合わせ、視直径の小さな系外銀河を狙います。35mm判換算で3900~4680mmに相当する焦点距離なので、画素数はともかく、構図だけならそれなりの迫力で写せるはずです。


「春の銀河祭り」とはいえ、おとめ座を中心に対象は非常に多く、何をターゲットにするかはずいぶん迷ったのですが、今まで撮っていない対象ということで、メシエ天体の中でイマイチ存在感の薄いM61、そして2つの銀河が衝突している姿が有名なNGC4567-8を狙うことにします*1


撮影は先のM51の場合と同様、モノクロカメラで近赤外画像を、カラーカメラでRGB画像を得て、LRGB合成をする方針で。まずは近赤外の「撮って出し」ですが、Gain=110の5分露出の結果がこれ。


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背景の明るさの違いは、おそらく天体の高度&時間帯によるもの。光害の影響を受けづらい近赤外とはいえ、まったくの影響ゼロとはいかないようです。とはいえ、この時点でフェイスオンのM61の腕が見えるというのは、なかなか大したものです。


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同じくこちらはカラーの「撮って出し」。UV/IRカットフィルターのみの状態で、Gain=110の3分露出です。こちらだと、この時点ではいずれも銀河中心部くらいしか見えません。なお、光害カットフィルターを使わなかったのは、自然な色情報が欲しかったため。決してフィルターの付け外しが面倒だったとかそういう理由では……ゲフンゲフン


これらを全て各8枚ずつ撮影したのち、処理して出てきた結果がこちら。


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2021年4月11日 ビクセンED103S+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=110, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG Night Sky H-alphaフィルター使用
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=110, 露出180秒×8コマ, OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

まずはM61から。この銀河はおとめ座の「銀河密集地帯」からは南に少し離れた位置にありますが、おとめ座銀河団の一員です。実際のサイズは私たちの銀河系と同程度と言われています。立派な渦巻きを持つ見事な銀河なのですが、上記の位置の問題に加え、明るさが9.7等とやや暗いこともあり、どうにも存在感の薄い可哀想な子です。


このくらいクローズアップすると、腕が見事で興味深いです。巻き方がちょっとうみへび座のM83に似ている気もします。



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2021年4月11日 ビクセンED103S+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=110, 露出600秒×8コマ, OPTOLONG Night Sky H-alphaフィルター使用
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=110, 露出180秒×8コマ, OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.9.0bほかで画像処理

そしてNGC4567-8。2つの銀河のうち、上がNGC4567、下がNGC4568です。今まさに2つの銀河が衝突し始めた姿で、写真で見ると、NGC4567の方がやや青味がかっているのが分かります。どちらも約12等とかなり暗い銀河ですが、激しい光害の中、よく写ってくれました。さすがは近赤外というところでしょうか。


ただ一方で、暗黒帯はやや不鮮明です。一般に赤外域での撮影の場合、暗黒帯は透けて写ってしまいます。これは、暗黒帯による減光の影響が短い波長の光ほど大きいためで、近赤外撮影の泣き所でもあります。もっとも今回の場合は、極端にクローズアップしたことでシーイングや微細なガイドズレの影響が出た可能性もあり、何とも言えないところです。


ちなみにこの銀河、"The Butterfly Galaxies"(ちょう銀河)という愛称がありますが、もう一つ有名な愛称として"The Siamese Twins"(シャム双生児)というのがあり、こちらの方が有名かもしれません。ただ、これはいわゆる結合双生児を指す俗称で、用語として不適切ということから、2020年8月、NASAはこの呼び名を使用しないと決定しています。




さて、これを撮った後、お遊びとして「東京都心から天の川が撮れるか?」にチャレンジしてみました。


以前から、試してみたいテーマではあったのですが、先日、けむけむさんが自宅から天の川の撮影に成功されているのを見て、尻に火が付いた形。この夜は透明度がイマイチでしたが、時間があるので試してみた次第です。


使う機器は、ここ最近のお手軽撮影でおなじみの構成で、EOS KissX5 SEO-SP3にシグマの格安レンズ18-50mm F3.5-5.6 DCの組み合わせ(焦点距離28mm、F4.5に設定)。ボディ内には光害カットフィルターLPS-P2-FFを内蔵し、追尾には赤道儀化AZ-GTiを用いています。


この構成で、とりあえず240秒露出で8枚確保しました。1枚の「撮って出し」はこちら。


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画角に地上の強烈なLED照明からの光芒が入って、かなりうっとうしいです。かろうじてさそり座と南斗六星、M8が確認できますが、当然天の川は影も形も見えません。


しかし、8枚コンポジットしたのち、DynamicBackgroundEstimationでざっくり背景を引いて強調してみると……


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見える!見えるぞっ……!!


40~50m先の真正面にLED照明がある上、フラット補正なしのこんな雑なやり方でも、案外ガッツリ天の川が浮かび上がってきて驚きです。考えてみれば、天の川が肉眼で見えるものである以上、トータルとして6等以上の明るさはあるわけで、写っても不思議はないわけですが……それでも、街の光を超えて星の光が地上に確かに届いているのだなぁと感じられて、ちょっとした感動です。


照明さえ直射しなければもう少しマシな画像になったと思うので、次は正面に強烈な照明がない場所でチャレンジしてみようかと思います。案外まともな絵が撮れるかもしれません。

*1:どうでもいいけど、NGC4567ってすごく覚えやすい……(笑)

光害のスペクトルを撮る

最近、近赤外+カラー画像による銀河のLRGB撮影にはまっているわけですが、ここで悩ましいのが「カラー画像に光害カットフィルターを使うべきかどうか?」という点です。


先日のM51の撮影において、UV/IRカットフィルターのみで撮ったら思いのほか色の乗りが良かったこと、またrnaさんのブログのコメント欄にて、「もりのせいかつ」の kさんが「光害地での銀河撮影ではクリアフィルターを使う」という話をされていたこともあり、光害カットフィルターのデメリットに改めて目が向いたのです。
rna.hatenablog.com


光害カットフィルターの利点・欠点を挙げると、こんな感じでしょうか?


利点

  • 水銀やナトリウム由来の輝線による光害をカットできる。
  • Hα線やOIII線、Hβ線を多く通すため、惑星状星雲や散光星雲のコントラストが上がる。
  • 赤外線をカットするため、赤カブリを防止できる。(クリアフィルター仕様のカメラのみ)


欠点

  • 色再現性が悪くなる。
  • 特定波長の光がカットされる分、全体として光量が減る。
  • LEDなどの連続スペクトルによる光害には基本的に無力。


こうしてみると、特定の輝線で輝く散光星雲や惑星状星雲はともかく、連続スペクトルで輝く系外銀河に対しては、光量減少などの副作用が少なからず悪影響を及ぼしそうです。特に、もし「輝線による光害」が少ないのであれば、上にあげた利点すらほぼ消えてしまうわけで、系外銀河に対して光害カットフィルターを使う理由はほとんどなくなってしまいます。


では、実際に撮影場所の光害はどんな状態になっているのでしょうか?LED照明がかなり普及した現在、東京都心の光害がどうなっているのか、上記の問題を別にしても興味があります。


簡易分光器の作成


光害の原因を突き止めるには、簡易分光器で「光害のスペクトル」を見るのが手っ取り早いです。「簡易分光器」でググると、日本宇宙少年団のものを筆頭に、回折格子やDVDを使って簡単に工作できるものが色々出てきます。
www.yac-j.com
(↑リスト中の「科学工作 16」参照)



しかし、明るいとはいえ相手は夜空。肉眼でスペクトルを確認するには暗すぎます。となると、どうにか撮影する手立てを考えないといけません。


実は「光害のスペクトルを撮影する」ということについては、あぷらなーとさんが既に3年前に実行し成功しています。
apranat.exblog.jp
apranat.exblog.jp
apranat.exblog.jp


とはいえ、こちらにはM57オスネジを都合よく備えたようなカメラはありませんし、BORGパーツを利用してしっかりした分光器を組み立てる、なんていうことはできそうもありません。


何かうまい手はないものか……とトイレで考えていて、ふとひらめきました。


「……もしかしてこれは使えるのでは?」


ジャストフィ~ット!!


本当にまったくの偶然なのですが、トイレットペーパーの芯(内径約37.5mm)が手持ちのPowerShot S120のレンズ外周にぴったりフィットしたのです。これを分光器の筐体として使えば、面倒な工作は不要になりそうです。


光を取り込むスリットは、これまたたまたま捨てる予定だったカッターの使用済み替え刃を流用。見ての通りの雑な仕事ですが、簡易分光には十分。正確に測ったわけではありませんが、スリット幅は100μm以下にはなっていそうです。そして、内側には光の乱反射を防ぐため植毛紙を貼ります*1


一方、回折格子Amazonで溝の間隔d=1/1000mmの安価なものを購入し、これを適当なサイズにカットしてレンズに貼りつけます。



ここに分光器の筐体をかぶせて完成です。おまけとして、余った植毛紙を筒先に巻き付けて簡易フードにしてみると、摩擦だけで保持出来てなかなかいい感じです。


これで、まずは手始めに太陽光を見てみると……

うむ、ちゃんと分光しています。しかも……

こんな図画工作レベルの雑な分光器でも、主要なフラウンホーファー線はきっちり見えてます!これは面白い!以前、DVD分光器で精度をとことんまで追及している記事を読みましたが、ハマるのも分かる気がします。
seppina.cocolog-nifty.com


各光源のスペクトル


では、いよいよ本題です。まずは各種光源のスペクトルを確認しておきます。


LEDは近所の街灯に付いている白色LED。エネルギーの高い青色LEDの光を使って蛍光物質を光らせる、という白色LEDとしては典型的なものです。青色に比較的鋭いピークがあり、より長波長側に蛍光物質由来の幅広いピークがあるという、まさに理屈通りの分光特性です。また、下の蛍光灯やメタルハライドランプのスペクトルと比べるとハッキリしていますが、連続スペクトルなのも特徴です。


蛍光灯はいわゆる「昼白色」のもので、街灯にもよく使われているものです。水銀由来の435.8nm(青)546.1nm(緑)、蛍光物質由来と思われる610nm付近(赤)の強い輝線に加え、演色性を改善するために490nm付近(水色)580~590nm付近(オレンジ)にも弱い輝線が見られます。


メタルハライドランプは観測場所近くの幹線道路に街灯としてあったものです。これは電球中に水銀に加えて金属ハロゲン化物の蒸気を封入したもので、演色性が水銀灯より良好な上、水銀使用量が少なくて水俣条約の規制に引っかからないことから、水銀灯からの置き換えとしてしばしば使用されています。スペクトルは封入されている金属ハロゲン化物の種類によって変わりますが、今回測定したランプの場合、水銀由来の輝線のほか、ナトリウム由来と思われる589nm付近の輝線など、複数の輝線が見られます。


光害のスペクトル


さて、それでは本命の光害のスペクトルです。


天文薄明終了後かつ月出前の暗夜に、簡易分光計を装着したカメラを天頂方向に向け「絞り開放(F1.8)、露光時間は設定できる最大値である250秒」の条件でRAWで撮影してみます。撮影後、レベル調整とノイズ除去処理を施して出てきた結果がこちら。


546.1nmの輝線がハッキリ視認でき、610nm付近にも輝線がありそう……ということで、光害の主因の1つはおそらく蛍光灯で確定です*2。一方、連続スペクトル成分の方は強度分布がLEDのそれと見事にそっくりで、当たり前というかなんというか、「LEDと蛍光灯による複合」というのが当地の光害の現状ということになりそうです。


それにしても、100μm以下のスリットを通してもなお、コンデジでの1枚撮りでスペクトルがバッチリ写ってしまう空の明るさには参りました。たしかにSQMで18.20等/平方秒*3というロクでもない空ですが、いい意味でもうちょっと苦労するかと思っていたのですが……orz


光害カットフィルターの効果


ここまで来たらついでなので、各光害カットフィルターの効果についても見てしまいましょう。基本的には公表されている透過率グラフ通りの結果だろうとは思いますが、せっかく手元に分光器がありますし、興味本位です。光源としては太陽光を用い、各フィルターを分光器のスリット前にかざしてスペクトルを撮影しています。


まずは一般的な光害カットフィルターから。手持ちのIDAS LPS-D1および同NGS1(=LPS-D3)について見ています。


LPS-D1は水銀由来の強烈な輝線(435.8nm(青)546.1nm(緑))やナトリウム由来の589nm付近の輝線(オレンジ)をしっかりカットしています。ただ、蛍光灯の610nm付近の輝線(赤)は通してしまっています。このあたりは公表されているスペック通りで、ある程度仕方のないところなのでしょう。


一方、NGS1はLEDの青側のピークである470nm付近をカットしており、さらにナトリウム由来の589nm付近の輝線や蛍光灯の610nm付近の輝線もカットしています。しかしながら、水銀由来の435.8nm546.1nmの輝線は透過してしまいます。特に、光害のスペクトルでも見えた通り、546.1nmの輝線は強力なので、これがカットできないのは市街地で使うにはちょっと厳しいかな?という印象です。


実際、以前NGS1で撮影してみたときには大きく緑にカブりましたが、この546.1nmの輝線のせいもあるのでしょう。
hpn.hatenablog.com


次に、ナローバンドフィルターの系統。AstronomikのHαフィルターは正真正銘のナローバンドフィルターなので、ほぼHα線(656.3nm)しか通しません。これはいいのですが、ちょっと面白いのはIDAS NB1ZWOのDuo-Bandフィルターです。


どちらもHβ、OIII付近Hα付近のみを通す「ワンショットナローバンドフィルター」と呼ばれる類のフィルターですが、スペクトルを見るとHα銭より波長の短い600nm付近から光を透過しており、620~630nmあたりに鈍いピークがあるように見えます。メーカーが公表している透過率のデータとはちょっと矛盾する結果です。実用上は問題ないですし、こちらの測定方法がそもそも「やっつけ」でいい加減なものなので、どこまで信頼できるかはなはだ怪しいのですが、メーカーの違う同系統のフィルターで共通して同じような特性が見られるあたり、原因がちょっと気になるところです*4




……で、結局光害カットフィルターを使うべきかどうかですが、光害のスペクトルを見る限り、蛍光灯の影響はまだまだ大きいようで、やはり取り除ける光害は取り除いておいた方がいいのかなという気はします。ただし、カメラが赤外線をカットしないクリアフィルター仕様の場合、こと系外銀河に関してはkさんご指摘の通り、赤外線領域を含めた光量の増加分が見込める*5ので、そことの兼ね合いでフィルター使用の可否は変わってきそうです。


ちなみに、「水銀由来の輝線をカットできるLPS-D1と、LED由来の青色ピーク&蛍光灯由来の610nmの輝線をカットできるNGS1を重ねて使えば、光害が根こそぎカットできて最強なんじゃね?」という、ものすごく頭の悪い発想も一瞬浮かんだのですが、光量が減る&ゴースト発生の危険性が高まるので、そんなことするくらいなら素直にNB1使っておいた方が良さそうです(笑)

*1:大量に余っていたので。なければ、つや消し黒で塗装してもいいと思います。

*2:光害のスペクトルではオレンジの580~590nm付近も明るくなっているように見え、これも蛍光灯由来の輝線が反映されているのかもしれません。

*3:Light Pollution Mapより

*4:モノクロセンサーで検出すれば、撮像素子上のカラーフィルターがない分、もう少し厳密な話ができそうですが、各波長に対する感度のキャリブレーションの手間など考えると、普通に分光光度計の守備範囲でしょう。

*5:しかも、赤外域に光害成分は少ないです。