PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

ステライメージ9 簡易レビュー(外観編)

f:id:hp2:20201223185251p:plain

12月21日、国産の天体写真処理ソフト「ステライメージ」の最新版、「ステライメージ9」(SI9)が発売になり、ウチでも早々にアップグレード版を購入しました。そこで、今回と次回の2回に分けて*1、簡単なレビューを書いてみようと思います。今回はパッケージやUIなど外観についてです。


なお、本筋とは関係ありませんが、発売当日早々に9.0aのアップデータが出ています。忘れずに適用しておきましょう。
www.astroarts.co.jp


ダウンロード版について


SI9からは従来のDVD版のほか、ようやくダウンロード版も発売されるようになり、入手は簡単になりました。ウチでもDL版を購入したのですが……インストール時にほんのちょっとしたプチトラブルが(^^;


インストールの際、当然のことながら製品のシリアル番号が必要になるのですが、これがパッと分からなかったのです。


DVD版ならシリアル番号はメディアのケース等に貼りつけられていますが、DL版の場合はどこにあるのか……。注文時のメールを見返してみるとアストロアーツの「お客様ページ」で確認できるとのこと。そこで同ページに飛んでみると……

f:id:hp2:20201223182201j:plain:w640

……どこで確認するのよ?


パッと見、それらしい項目はどこにもありません。ステータスは「ログイン中」になっているので、確認できないとおかしいのですが……。


f:id:hp2:20201223182259j:plain:w640

結局、答えは右側に青く表示されている「メンバーページ」のボタンを押すことでした。こうするとようやく、製品の登録情報等にアクセスできるようになります。しかしながら、最初に案内されたページのタイトルが「アストロアーツお客様ページ」で、これと別に「メンバーページ」が存在することが想起しづらいこと、同ページの「メンバーページ」の表示がボタンであることが認識しづらいことなど、正直、UIとしてちょっとどうかと思います*2


なお、DL版を購入した場合、その時点で製品登録は自動的に行われるので、別途登録の必要はありません。


モードの切り替えについて


SI9は、基本的にSI8のUIや機能を引き継いでいます。


f:id:hp2:20201223182424p:plain

SI9を起動すると、最初に「自動編集モード」と「詳細編集モード」のどちらを選ぶかのダイアログが出てきます。前者を選べば新UIが、後者を選べばSI7以前からのUIが現れます。ここはSI8と同様です。両者の機能的な特徴はSI8からほとんど変化がないので、以前のレビュー記事も参照してもらえればと思います。
hpn.hatenablog.com


f:id:hp2:20201223182551p:plain

両モードは互いに行き来可能ですが、「詳細編集モード」→「自動編集モード」の移動について、SI8ではいちいちメニューから「ファイル」→「コンポジットパネル」or「画像調整パネル」を呼び出す必要があったのですが、SI9ではツールバーに対応するボタンが登録されていて、行き来がしやすくなっています。


普段は「詳細編集モード」を使っているものの多数枚を一気に現像する必要が出た場合など、気軽に「自動編集モード」を使いやすくなったと思います。


「自動処理モード」について


「自動処理モード」はSI8から搭載された新UIで、コンポジットや画像処理を簡単に実行することにフォーカスが当てられています。

f:id:hp2:20201223182637p:plain
f:id:hp2:20201223182654p:plain

メニューは基本的にSI8を踏襲していますが、項目ごとに操作パネルが分かりやすく分類され、プロセスの見通しがずっと良くなっています。また、各機能もブラッシュアップされ、新たな設定項目が増えているものもいくつかあります。


しかし逆に言うと、SI8の難点もほぼそのまま引き継いでしまっています。特に画像処理パネルについては、相変わらずできることが「詳細編集モード」に比べると極端に少なく*3、かなり不満を覚えます。


また、「自動処理モード」で設定できる各種パラメータが「詳細編集モード」と互換性が全くなく、またこれらのパラメータがどういうものであるか(何を操作しているのか)が不明なのも問題です*4。これだと、例えば「自動処理モード」での処理に慣れた初心者が、次のステップとして「詳細編集モード」に移ろうとした場合、これまでの経験が全てご破算になってしまいます。


中には「ホット/クールピクセル除去」のようにパラメータの意味する数字が正反対のものまである始末です*5。さすがにこれは酷いのではないかと思いますが、もはやこのUI、このパラメータ表示で走り始めてしまった以上、おそらくこの先も変わらないのでしょう。ここまでUIが違うと実質的に別ソフトのようなものですし、いいと言えばいいのでしょうが……やっぱりどうにもモヤモヤします。


マニュアル、公式ガイドブックについて


パラメータの意味云々で思い出しましたが、SI9のマニュアルはSI8と同様、きわめて簡素なものです。実物はこちら(リンク先PDF)で参照できますが、内容としてはインストール等の方法に加え、「自動処理モード」での教材画像の「編集手順」が載っているだけ。あくまで「手順」なので、パラメータは特定値を指定されるだけで、なぜそうした値を設定するのかの根拠や仕組みは一切不明。そして「詳細編集モード」については、存在についてごくわずかに触れられているだけです。


素直な感想としては……

f:id:hp2:20201223184914j:plain


考えてみれば、スマホのアプリなどは説明書の類はなく、ほぼ全面的にヘルプに頼っています。もしかするとステライメージもそのひそみに倣っているのかもしれませんが、この規模のソフトでさすがにそれは無理があると言わざるを得ません。マニュアルについてはSI8のレビューの際に散々苦言を呈しましたが、改善が一切見られないのは実に残念なことです。



救いはSI9には公式ガイドブックがある点で、かなりの部分はこちらで補えます。逆に言うと、これがないと新規ユーザーや初心者には手も足も出ないでしょう。もし新規に買うのなら、ガイドブック付きのパッケージを強くお勧めしておきます。


もっとも、このガイドブックも、SI6の公式ガイドブックの充実度に比べるとやや物足りないのが正直な感想です。一通りの解説は行われているので処理はできるようになると思いますが、SI6のガイドブックはパラメータの最適値の具体的見極め方法など、実践的な内容が充実していました。今回のは、自動処理モードの説明やコマンドリファレンス*6にページ数を持っていかれた感じが否めません。とはいえ、あるとないとでは大違いなのは間違いのないところです。




さて、次回は皆さんお待ちかね、SI9の新機能やその処理性能を評価してみようと思います。

*1:あくまで「予定」。

*2:それとも引っかかるの自分だけ?(^^;

*3:ガンマフラット不可、ヒストグラムの表示不可、デジタル現像不可、かぶり補正不可、マスク処理不可 etc, etc...

*4:公式ガイドブックを見ると、ようやく各操作で何を行っているのかについてある程度解説があります。

*5:詳細編集モードでは0~100%、自動処理モードでは0~1で表す上、数字の意味が両者で正反対になっています。詳細編集モードでは数字が小さくなるほど処理が強くなりますが、自動処理モードでは数字が大きくなるほど処理が強くなります。これも公式ガイドブックで初めて知った情報です。

*6:もっとも、ただの「コマンドリファレンス」にしては注釈が充実しすぎていて、ここに押し込むのではなく、もうちょっと本全体の構成を練れなかったかなという気はします。内容が悪くないだけに、見過ごされかねないのは惜しいです。

木星と土星の大接近

新聞でも話題になっていましたが、今、西の空で木星土星が大接近して見えています。これほど接近して見えるのは400年ぶりとか800年ぶりとか言われていて、とにかく珍しい現象には違いありません。


f:id:hp2:20201222232914j:plain

ちなみに前回は約400年前、1623年07月17日のことですが、このときは東京における日没時の木星土星の高度が10度以下で、実際には観測できなかったものと思われます(図の視野円は0.2度)。


f:id:hp2:20201222232955j:plain

約800年前の1226年03月05日には、明け方の空で両者が大接近していて、こちらは十分観測が可能だったでしょう。この時は今回よりもさらに倍ほども近く、互いの衛星の軌道面がほとんど交わりあうほどでした。


今回はさすがにそこまで近くはありませんが、太平洋岸は晴れ間が多い季節で、時間帯にも恵まれていることから、かなり早くから注目されていました。



こちらは12~13日ごろにロケハンして、いつもの公園で見えることを確認したのち、まずは17日の三日月、木星土星の三重会合を狙いました。


f:id:hp2:20201222233027j:plain

ところが、この日は日暮れ前に、西空の肝心なところに雲がかかり続け、一向に月や惑星が見えません。それでも日没頃から1時間ほど粘っていると、高度はすっかり低くなってしまったものの、ようやく雲の隙間から月や惑星が顔を出し始めました。すかさず撮ったのがこちら。


f:id:hp2:20201217174632j:plain
2020年12月17日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) AZ-GTiマウント
Canon EOS Kiss X5, ISO100, 露出1秒
Digital Photo Professional 4ほかで画像処理

また、この画像を思いっきり強調すると……


f:id:hp2:20201222193300j:plain

ガリレオの4大衛星」に加えて、土星最大の衛星タイタンまで見えてきます。


写真だとどうしても明るいところが飛んでしまいますが、双眼鏡を使って肉眼で見ると、月、木星土星、月の地球照すべてを捉えることができて、実に美しい眺めでした。




次いで21日、この日は木星土星の最接近の日です。計画としては、SXP赤道儀+ED103S+ASI290MM/MCで撮影を、AZ-GTi+MAK127SPで眼視をする予定でいました。


で、荷物を台車に詰め込んで、公園までゴロゴロ転がしていったのですが、公園に到着する直前、AZ-GTiを家に忘れてきてしまったことに気づきました*1。眼視を諦めるのも難ですし、ここまで来ておいて今さらこのクソ重い台車*2を転がして家まで戻るのも面倒なので、やむをえず荷物を公園に置いたまま、家までAZ-GTiを取りに走ることに。とんだ運動になってしまいました。


f:id:hp2:20201222233226j:plain

それでも、16時半前にはセッティング終了。準備万端です*3


……と、望遠鏡のセッティングを見ていた女の子が「何をやっているんですか?」と声をかけてきました。聞けば天文に興味があるようで、急遽、その娘を含めた10人ほどの小学校高学年の男女を相手に、即席の観望会を開くことに。今時の小学生は子供向けスマホを持っている子も多く、眼視のほかにコリメート撮影にもチャレンジしていました。


見ごろの半月が空高くに出ていたこと、初心者にも分かりやすい土星木星が接近するという一大イベントであることもあり、小学生のほか、その親御さんや近所の方々も集まって、想像以上の大盛況になりました。全部で15人ほどにもなったでしょうか。さすがに、これほどの観望会の準備はろくにできていなかったのでアレですが、そこそこ楽しんでもらえたのではないかと思います。


しかし、こんな状況では撮影に集中できるはずもなく(苦笑) おまけに、この日はPCのご機嫌が今一つで、撮影の途中でキャプチャソフトがフリーズすることもしばしばでした。そのため、とても思い通りに撮れたとは言い難いのですが、それでもなんとかそれっぽく仕上げたのがこちら。


f:id:hp2:20201222071738j:plain
2020年12月21日15時13分12秒(日本時間)
ビクセン ED103S(D103mm, f795mm) SXP赤道儀
ZWO ASI290MC, Gain=150, 30ms, 約2000フレームをスタック
OPTOLONG UV/IRカットフィルター使用

さすがに木星土星では輝度差が大きすぎ、両者をきれいに収めるのは無理でした*4。とはいえ、カメラや望遠鏡の視野の中に2つの巨大惑星が同居するというのは実に不思議な光景です。もちろん、自分としても初めて見る光景で、写真云々を抜きにして非常に印象深い経験でした。

*1:電源としているエネループを充電していて、うっかりそれごと置いてきてしまいました。

*2:台車等の自重を含めて、おそらく100kg近くあったんじゃないかと……。

*3:写真は、一連の写真撮影&観望終了後のもの

*4:木星に露出を合わせれば、土星は炙り出せた可能性がありますが、PC不調&子供たちがひしめいている中では細かい試行錯誤は無理でした。

他人の画像を処理してみる

Twitterで以前から相互フォローさせていただいている星屑 BBさん(@hoshikuzu922)が、ちょっと面白い企画をされていました。



素材を提供するので各々処理してみませんか?という呼びかけ。他人の撮影したRAW画像をじっくり見る機会などなかなかありませんから、さっそく手を挙げてみました。


対象はオリオン座のLDN1622。バーナードループを挟んでM78と反対側にある暗黒星雲です。このあたりは暗黒星雲とその周囲に広がる分子雲、これらと重なるように存在する散光星雲が入り混じって、非常に美しい領域です。素材は当然のことながら空の暗いところで撮られているので、ポテンシャルは十二分にあるはず。また、高性能ぶりに定評のあるイプシロン光学系での撮影ですから、星像や周辺減光の様子も非常に気になります。



というわけで、早々に素材をDLして眺めてみます。1枚の「撮って出し」画像はこんな感じ。

f:id:hp2:20201205183615j:plain

一見何も写っていないように見えますが……


f:id:hp2:20201205183630j:plain

強調してみると、ちゃんと中央に暗黒星雲と、それに隠されている散光星雲が見えてきます。1枚でこれなので、これが30枚もあるならどうにでもなりそうです。伊達に普段、光害まみれで天体の見えない写真を扱っているわけではありません(笑)


f:id:hp2:20201205183843j:plain

コンポジットしてレベル調整してみると、中央の暗黒星雲&散光星雲がよりハッキリしてきます。一方で、周辺減光もハッキリしてきますが、ε-180EDにAPS-CフォーマットのK-5IIsという比較的無理のない組み合わせのおかげか、かなり素直な減光パターンです。ミラーボックスによるケラレもほとんど目立ちません。


それにしても、光害によるカブリがほとんどない画像というのは本当に驚きです……って、あれ?もしかして普通の人の「天体写真」ってこういうのを言うのか……?



さてさて、いつもの私なら「RGB分割フラット補正」で背景を丁寧にならしていくところ……そうでなくても、普通なら各コマ現像前にフラット補正を済ませておくところですが、今回は残念ながらフラット画像がありません。


仕方がないので、ここはいわゆる「セルフフラット」を用いるしかありません。簡単に言うと、画像から星などを消去する、あるいは背景の一部の色をサンプリングして背景全体の色分布を推定するなどの方法で、フラット画像を生成するものです。


こうしたことができるソフトとしては、無料だとFlatAideYIMGIRISDynamicBackgroundEstimation*1など、有料だとFlatAideProPixInsightなどがあります。また、ステライメージでも手順は少々複雑ですが可能ですし、次バージョンの9からは単独の機能として搭載されます


ただしこれらの機能、慎重に使わないと肝心の星雲なども補正によって消えてしまうので注意が必要。特に今回のような、淡い散光星雲や分子雲が漂っている画像は要注意です。


で、いくつかのソフトでフラット画像を作成して試してみたのですが、今回はPixInsight(PI)の「AutomaticBackgroundExtractor」(ABE)を利用しました*2


f:id:hp2:20201205184432j:plain

ABEで生成したフラット画像がこちら。レベル調整がされているので明るく見えますが、四隅の光の落ち方など、まずまず背景がうまく抽出されているように思えます。そこで、これでフラット補正を行ってみるのですが……


f:id:hp2:20201205184550j:plain

うん、明らかに過剰補正ですね*3。普通ならここで諦めるところですが、せっかくきれいっぽくフラット画像が取得できているのにもったいないです。


f:id:hp2:20201205184800p:plain

そこで、ステライメージの「ガンマフラット」機能を使います。この機能は、フラット画像にガンマ補正をかけたり、一定値を加減算したりすることで補正のかかり方を微調整するもので、フラットが合わない場合の救済法としてかなり優秀なものです。

www.astroarts.co.jp
hpn.hatenablog.com


この機能でちょうど良さそうなパラメータを探ってみると「ガンマ=0.5、オフセット=60%」とすることで、画像がかなりフラットになってくれました。おおよそこんな感じ。

f:id:hp2:20201205192457j:plain

明度分布を見ても、かなりフラットになっているのが分かります。


f:id:hp2:20201205184855j:plain

試しに強調してみると、端に近いところはさすがに補正しきれていませんが、これはもう仕方がないでしょう。こういう場合はトリミングするに限ります。


レベル調整後、「周辺減光/カブリ補正」でわずかに残った背景の傾斜を補正し、デジタル現像を施して*4トリミングしたのがこちら。


f:id:hp2:20201205185251j:plain

背景が均されたおかげで、分子雲や散光星雲の存在がかなりハッキリしてきました。しかし、レベルを切り詰めた結果、ノイズも画像全体に浮き上がってきてしまっています。


そこで次に、このノイズを除去します。ノイズ除去については、過去にいくつかのソフトについて比較レビューを行っています。

hpn.hatenablog.com


今回は、このレビューにおいて優秀な結果を残したNeatImageと、先日入手したTopaz DeNoise AI*5の2つのソフトを使ってみます。


f:id:hp2:20201205190859j:plain:w600

全体を比較するとこんな感じ。NeatImage、DeNoise AIともにノイズ感は大きく低減されていますが、DeNoise AIの方はカラーバランスの調整なども行っているようで、色合いが大きく変わっています。結果から言ってしまえば、色表現としてはDeNoise AIが正しいのですが、画像を勝手にいじられているという意味で若干の気持ち悪さを覚えるのは確かです。


f:id:hp2:20201205191328j:plain

中心部を等倍で切り出したのがこちら。DeNoise AIでは、星の「赤ハロ」まで取り除かれているのは驚きで、ノイズ除去にとどまらず様々な処理を加えているのは一目瞭然です。ただ、仔細に見ると星の周りに黒いリンギングがわずかに生じていますし、シャープネス処理の関係か、縦方向のバイアスノイズもやや目立ってしまっています。画像処理の最終盤で使うにはいいと思いますが、処理途中で使うと副作用も大きそうです。


というわけで、今回はNeatImageで処理した画像を使用します。


f:id:hp2:20201205191450j:plain

処理済みの画像をRGB三色分解し……


f:id:hp2:20201205191544j:plain

Photoshopで読み込んでカラーモードをRGBカラーに変更後、NikCollectionのSilver Efex Pro 2を起動します*6 *7


左側に様々なプリセットのプロセスが並んでいますが、天体写真で効果的なのは「高ストラクチャ(強)」「フルダイナミック(強)」「フルコントラストストラクチャ」あたりです。効果については実際に色々試してみるといいのですが、比較的無難なのは「高ストラクチャ(強)」。コントラストが付いて分子雲などの微妙な明暗が見やすくなるとともに、ガスが渦巻く構造なども見えやすくなってきます。


一方、「フルコントラストストラクチャ」などは効果こそ絶大なものの、背景の色むらやバイアスノイズなども強調されてしまうため、画像がガビガビになったり、色合いが修正不能なほど狂ったりします。これは本当に良質な画像が得られた場合に限った方がいいでしょう。


今回は画像にバイアスノイズが残っているため、「高ストラクチャ(強)」をR, G, Bの各画像に適用します。これを再びRGB合成するとこんな感じ。

f:id:hp2:20201205191732j:plain

一気に画像が派手になりました。左手方向に流れる分子雲もハッキリしていますし、背景の散光星雲も右上方向に伸びているのがよく分かります。しかしその一方で、分子雲などが不自然に緑色に色づいているのが気になります。背景にも、バイアスノイズ由来なのかカラーノイズなのか、緑の色むらが……。そこで、ステライメージの「Lab色彩調整」を用います。


これは画像のホワイトバランスは変えずに、赤、緑、青、黄の各色を個別に、他の色を変化させないで調整できる便利な機能。これを用いて、緑色の彩度を抜いてやるとこんな感じ。

f:id:hp2:20201205191827j:plain

緑色がかった部分だけがきれいに取り除かれた一方、他の部分にはほとんど影響がないのが分かります。


ただ、この機能を使うに当たっては注意が必要です。今回の場合、被写体が恒星およびその光を反射する分子雲がメインであること、また「緑色の恒星は存在しない」ことから、緑色が画像内に存在しないことを確信したうえで緑色を抜いていますが、被写体によっては、下手に色を抜くと明らかに色がおかしくなったり、情報の欠落を招く可能性があります*8


このあと、背景の不均一さが残る部分をさらにトリミングしたり、レベル調整で背景の明るさを調整したり、デジタル現像(色彩強調マスク)で星の色を調整した際に「穴」が空いた輝星中心部を修正したりして、最終的に出来上がった結果がこちら。



f:id:hp2:20201203140512j:plain:w900

光星雲と無数の星の間を漂う暗黒星雲&分子雲が非常に美しいです。普段なら光害カブリの処理に苦心したり、強調すると色がおかしくなるのはザラだし、淡い星雲を強調するためのマスクづくりに苦労したりするのですが、今回はそうした苦労はほとんど不要で、元画像の質が良いとこうも違うかと驚きの連続でした。


星屑 BBさん(@hoshikuzu922)、素敵な素材をありがとうございました。

*1:ちょうどつい先日、GUI版が公開されたばかりです。

*2:「牛刀をもって鶏を割く」感がものすごいですが……。

*3:ステライメージで編集したFITSファイルをPIで読みこんだ時、レベルがおかしかった(異常に暗い&カラーバランスが変)ので、そのあたりが影響していそうです。

*4:この際、「色彩強調マスク」を用いて、星の色が飛ばないようにしています。

*5:ブラックフライデーのセールで大幅割引されていたのでつい……。

*6:DxOに移管されて以降の有料版は試していないので分かりませんが、おそらくNikCollectionは単体でも使用可能かと思います。https://hpn.hatenablog.com/entry/20170423/1492926945

*7:Silver Efex Pro 2はカラー画像に対してでないと使えません。ステライメージで三色分解した場合、R, G, Bの各画像をカラーモードに変換しておくと、Silver Efex Pro 2でそのまま読み込めます。

*8:極端な話、惑星状星雲が写っている画像で青や緑を抜いたり、散光星雲が写っている画像で赤を抜いたりすればどうなるか、考えてみれば分かると思います。