PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

準大接近後の火星

9月末~10月頭にかけて秋晴れの日があったので、このまま天気が良くなるのかと思いきや、秋雨前線は停滞するわ台風は来るわで、関東は相変わらずの悪天候が続いています。しかも、偏西風が北に偏っているせいで移動性高気圧も北に偏り、関東には右回りに北東の湿った空気が流れ込む最悪のパターン。こうなってしまうと好天はしばらく望めそうもありません。


f:id:hp2:20201013185645j:plain

そこで、薄雲越しとはいえ火星が見えた月曜の夜、玄関先に望遠鏡を引っ張り出して撮影にチャレンジしてみました。


f:id:hp2:20201013185707j:plain

前回は光軸ズレに由来すると思われる像の悪さに悩まされたので、今回は拡大システムに強化を加えました。具体的には、スライド機構を含んでいるミニボーグ鏡筒DX-SD【6011】の部分を鏡筒バンド&アリガタで補強してみました。重量は増しますが、これならスライド部分でのガタは排除できるはずです。


光軸を慎重に合わせたのちに撮影を開始しますが、この日は上記の通り薄雲越しの撮影になったため、火星の手前を雲の濃い部分が通過するたびに像の解像度や明るさが激しく変化します。またシーイングも悪く、撮影の条件としては最悪でした。おまけに、まだまだ終電前の時間のため、数十m離れた位置を数分おきに走る電車の振動にも悩まされました。


それでも、比較的マシな写りのショットを選んで処理した結果がこちら。


f:id:hp2:20201013185830j:plain
2020年10月13日0時18分41秒(日本時間)
セレストロンEdgeHD800+Meade 3x TeleXtender(D203mm, f6096mm) SXP赤道儀
L画像:ZWO ASI290MM, Gain=250, 30ms, 1500フレームをスタック
RGB画像:ZWO ASI290MC, Gain=250, 30ms, 1500フレームをスタック
OPTOLONG NightSky H-Alphaフィルター(L画像)およびOPTOLONG UV/IRカットフィルター(RGB画像)使用


f:id:hp2:20201013185845j:plain

光軸を慎重に合わせたこともあってか、薄雲で邪魔された割には、オーロラ湾周辺を中心にディテールも比較的よく出てくれました。日時的には準大接近のタイミングを過ぎたとはいえ、視直径は22秒以上あり、まだまだかなりの大きさです。


もっとも光軸調整については、EdgeHD800のミラークラッチを締め込むとわずかにズレるのも観測されていて、突き詰めるとなかなか厄介そうです。クラッチを締めないと、今度は鏡筒の傾きが変わるとともに光軸がズレそうですし、なかなか悩ましいところです。


惜しいのはやはり薄雲の存在で、フレーム数が稼げなかったのに加え、火星からの光が雲の水滴によって虹色に分光し、これが縁の部分に同心円状に乗ってしまいました。画像処理でなるべく目立たないようにはしていますが……。


ちなみに、今回の処理ではRegistax6でのウェーブレット処理に加え、L画像についてステライメージを用いて「最大エントロピー法」による画像復元を行っています。惑星写真で有名な熊森氏が用いている手法で、注意して使わないと偽模様が出現しかねませんが、パラメータをうまく調整して使えばなかなか効果的です。


f:id:hp2:20201013185930j:plain
画像処理の効果
(1) スタッキングのみ
(2) Registax6によるウェーブレット処理
(3) (2)+最大エントロピー法による画像復元

トライバーティノフマスクの効果

f:id:hp2:20201003200635j:plain

先にcockatooさんから譲っていただいたトライバーティノフマスク、今回早速試してみましたが、結論から言うと今回は失敗でした。


まず、このトライバーティノフマスクを使うとどのような干渉像が出るかですが、Maskulatorでシミュレートしてみるとこんな感じ。


f:id:hp2:20201013190032j:plain:w384

3本セットの光条が3対出ていて、光軸が合っていればこれらがきっちり対称に現れます。一方、光軸がズレていると、3本セット内での光条の対称が崩れます。この光条の位置は副鏡の光軸調整ネジの位置に対応しているので、対称が崩れているセットの側にあるネジを調整すれば、簡単かつ精密に光軸を合わせられるというわけです。詳しくは以下の記事を参照ください。

シュミカセ光軸合わせの新兵器・トライバーティノフマスク | 天リフOriginal


そこで、マスクを鏡筒にセットしてその像を見てみると……


f:id:hp2:20201013190158g:plain

…………うん?光条どこ?


これ、結論としては簡単で、カメラの設定に対して光条が暗すぎ、写っていないのです。上の画像では、ペガスス座α星マルカブ(2.49等)を対象に、Gainを最大まで上げたうえでシャッター速度を50msとしていますが、これではまるで不足ということです。試しに、Maskulatorで光源の明るさをぐっと落としてみると……


f:id:hp2:20201013190257j:plain:w384

まさに動画とそっくりのパターンが現れます。つまり、見えているのは回折パターンのごく中心部だけで、残念ながら見えているのがこれだけでは、光軸調整はかなり困難です。


この光学系で、このトライバーティノフマスクを用いて光軸調整を行おうとするなら、少なくとも露出時間を秒単位まで伸ばす必要がありそうです。もっとも、光条が写るほど露出を伸ばしたところで、光条が視野内に収まるかどうかは別問題ですが……(^^;

中秋の名月、または惑星撮影のお話

今年の極端な天気を反映するかのように、雨ばかり降った9月の東京*1ですが、月末ごろから秋晴れの日も増えてきました。そんな中、10月1日の夜に「中秋の名月」を迎えました。


中秋の名月」は、秋分を含む陰暦月の15日に出る月を言い、9月中にあることが多いのですが、今年は秋分が旧暦8月6日でしたから、これが10月に食い込んだ形です。「中秋の名月」はあくまで旧暦8月15日の月というだけで、必ずしも月齢とぴったり合うわけではないのですが、今回は10月2日6時5分が厳密に満月なので、10月1日の月はおおよそ満月と言っていいでしょう。


そして、この夜の月は「今年二番目に小さな満月」でもあります。これは月が地球から遠く離れたタイミングで満月になるためで、いわゆる「スーパームーン」と全く逆の現象と思っていただければいいでしょう*2。なお、10月2日0時における地球~月間の距離は40.48万km。今年4月7日の「スーパームーン」の時が35.69万km(4月8日0時時点)でしたから、1割ほども距離が違うことになります。


ちなみに、今年最も小さな満月は10月31日の夜で、地球~月間の距離は40.62万km(11月1日0時時点)に達します。


f:id:hp2:20201003200311j:plain

と、色々な意味合いを持つ満月だったので、玄関先に望遠鏡を引っ張り出して撮影を行いました。使ったシステムは今年4月7日にスーパームーンを撮影した時と全く同じもの。

hpn.hatenablog.com

今回も、Registaxでのウェーブレット処理を見越して二百数十枚を連写。その後、Autostakkert!3で70%を目途にスタッキングし、出てきた結果がこちら。


f:id:hp2:20201003200342j:plain
2020年10月1日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/1000秒×180コマ
Autostakkert!3でスタック後、Registax6によるウェーブレット処理


これだけ見ると、何の変哲もない満月なのですが、これを4月7日夜のスーパームーンと比較してみると……


f:id:hp2:20201003200427j:plain

なんと、これだけ大きさが違います(左が4月7日、右が10月1日の月)。半年間にわたる月の大きさの変化なんて、なかなか気づけるものではありませんが、こうやって比べてみると一目瞭然です。


f:id:hp2:20201003200519j:plain

月を撮影した後は、鏡筒をEdgeHD800に載せ換えて火星を狙ったのですが……これの写りがどうにも酷い。眼視でMAK127SPを覗いた方がよっぽどよく見えるという……。一応、撮った画像を処理してみましたが、あまりに酷いのでここには載せません。多分、半分以下の口径の望遠鏡で撮ったものにも劣るのではないでしょうか。とても口径20cmの望遠鏡の実力とは思えません。


原因として疑っているのは光軸のズレ、そしてレンズ等の光学エレメントのセンタリングのズレです。


まず光軸についてですが、これは現在、恒星の内外像を観察しながら目分量で合わせていますが、目分量ゆえの限界がどうしてもあります。わずかな光軸のズレが像質に大きな影響を与えるのは実感しているので、これが原因の可能性は大いにあります。


……などという話をTwitter上でしていたら、なんと話を聞きつけたcockatooさんからトライバーティノフマスクを直接譲っていただけることになりました。


f:id:hp2:20201003200635j:plain

これが今日受け取ってきたマスク。カッティングマシンでホルダーを切り抜いて作ったものとのことですが、さすがは機械、手でちまちま切ったものと比べるとはるかにきれいな仕上がりです。次の撮影の機会に、さっそく試してみたいと思います。


次にセンタリングのズレについて。現在の撮影システムはこんな感じです。

hpn.hatenablog.com

たわみを抑えるため、拡大系はボーグの延長筒による外骨格構造で支えるようになっています。しかし、少なくともバローレンズとフリップミラーは側面からネジで止める形になっていて、望遠鏡の光学系からカメラまで、全光学エレメントが本当に一直線になっているかどうかは怪しい気がします。


もしこれを改善するなら、シュミカセ接眼部~31.7mmアダプターの部分や、フリップミラーをつなぐ部分をBaadarのClickLockアダプターにでもしつつ*3、バローレンズをテレビューのパワーメイトに交換し、パワーメイト以降をすべてねじ込みで構成する……といった手がありうるでしょうか。

www.kokusai-kohki.com
www.tvj.co.jp

とはいえ、これをやると相当な出費で、さすがに二の足、三の足を踏んでしまいます。できれば、この展開はなんとしても避けたいところですが……。

*1:気象庁でデータを確認してみると、9月に降水がなかったのはわずか3日でした。

*2:「ミニマムーン」と言ったりもしますね。

*3:笠井のSAFETY-LOCKでも使えばもう少し安くなりそうですが。http://www.kasai-trading.jp/safetylock.html

ASI120MCの再活用

今、こちらの手元にはZWOのカラーCMOSカメラASI120MCが1台、余っています。


このカメラは撮像素子としてAptina ImagingのAR0130CS(1/3インチサイズ)を搭載しているもので、2013年の11月、惑星撮影用にASI120MMとともに購入したものです。
hpn.hatenablog.com


今では、ASI120MM/MCとも惑星撮影用としてはASI290MM/MCに道を譲っています。そしてASI120MMの方はガイドカメラとして現在も活躍中ですが、ASI120MCの方は完全に浮いた状態になっていました。


一方、こちらのメインの撮影機材が冷却CMOSに移行したのは、これまでにも書いてきた通り。となると、これまで撮影に用いてきたEOS KissX5 SEO-SP3がこれまた浮くことになります。そこで思いついたのが、一眼レフを赤道儀化AZ-GTiに載せ、ASI120MCでガイドすれば、星野写真がそこそこモノになるのではということ。焦点距離を欲張るつもりはないので精度はほどほどで十分ですし、これなら大した元手をかけずにできそうです。


f:id:hp2:20200913191843j:plain

さて、これが手元にあるASI120MCです。


f:id:hp2:20200913192004j:plain

初期ロットに近いものらしく、今では底面に印刷されている製品名が、シールに印刷されて貼られています。


f:id:hp2:20200913192013j:plain

側面には「ZWO Design」の文字が。個人的にはこの印字もかっこいいと思うので、現行品でも残してほしかった気がしなくもなかったり。


f:id:hp2:20200913192118j:plain

ASI120MCには(現行のカメラも同様ですが)焦点距離2.1mmのCCTVレンズが付属しています。


f:id:hp2:20200913192131j:plain

これをばらすと、レンズ本体とCマウント→Tマウント変換リングとに分離できます。この変換リングを介せば、市販のCマウントレンズを接続できるわけです。


f:id:hp2:20200913192210j:plain

今回、用意したのはノーブランドの焦点距離25mm、F1.4のCCTVレンズ。国内のカメラ屋から中古で2000円ちょっとで入手しました。この手のレンズは、AliExpressやAmazonマーケットプレイスなどを漁ると新品が安い値段で出品されているのを見かけますが、たいてい納品までに時間がかかる上、万が一の場合のトラブルを考えると、国内で入手できた方が安心です。


f:id:hp2:20200913192258j:plain

レンズ自体はB級品ということで、内部にチリが多数見えますが、どうせガイドに使うだけなので大した問題ではありません。分解して掃除することもできそうですが、そこまでの危険を冒す価値もないでしょう。


f:id:hp2:20200913192336j:plain

なお、このレンズのマウントは、Cマウントのフランジバックを5mmほど短くしたCSマウントです。ちょうどTリングを6mmほど延長できる延長筒を持っていたので、これで間に合うかと思ったのですが、残念ながらあともう少しで無限遠が出なかったので、やむを得ずCSマウント→Cマウントのアダプターリングを購入しました。これが四百数十円。


f:id:hp2:20200913192416j:plain

組み上げると、ぐっとそれっぽくなりました。ちなみに、このレンズの外径が31.7mmアイピースとほぼ同じだったので、31.7mm用のフィルターが付くかと期待したのですが、残念ながらレンズ側が微妙にサイズが大きく、取り付けられませんでした。


f:id:hp2:20200913192908j:plain

最後に、ASI120MC底面の1/4インチのネジ穴を用い、カメラのホットシューに取り付けてガイドシステムの完成です。


ちょっと考えると、EOS KissX5のピクセルサイズが4.2μm、ASI120MCのピクセルサイズが3.75μmなので、ガイド側が25mmのレンズでは、広角レンズでも使わない限りガイドの精度がまるで足りないように感じます。しかしPHD2では1/10ピクセルの単位で星像の重心位置を検出するので、実際には結構な焦点距離のレンズまでこれでガイドできる計算です。おそらく200mmくらいまではなんとかなるのではないでしょうか?


というわけで、これでまたちょっと遊べそうです。とりあえずはシグマの安い18mm-50mmのレンズがあるので、まずはこれでチャレンジですかね?