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ZWO ASI2600MC Pro簡易レビュー

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去る4月30日、前夜の撮影後に仮眠をとって起きてくると、宅急便が届いてました。この大きさはもしやっ……!!


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はい、昨年末に注文したものの、コロナ禍に巻き込まれて出荷が大幅に遅れていたZWOのASI2600MC ProとEOS-EFマウントアダプターII、そしてオマケのDuo Bandフィルター(2インチ)です。本来は1月早々に出荷予定だったのですが、大陸での新型コロナウイルスの流行にモロにぶち当たってしまい、実に4か月待ちとなってしまいました。


1月にウイルス流行&出荷遅延のニュースが流れてきた時点で、最悪GWくらいまでは出荷が伸びることを覚悟してたのですが、結果的にはまさに予想通りで、我ながらいい勘していたと言わざるをえません(^^;


さて、せっかくモノが届きましたので、実使用前ですが、ごく簡単にレビューめいたものを書いてみたいと思います。

外観&同梱品


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さて、まずはASI2600MC Pro本体の同梱物ですが、ボックス内にはカメラ本体とこれを入れるソフトケース、M48-T2変換リング、M42-M42延長筒(21mm)、M42-M48延長筒(16.5mm)、2インチキャップ、六角レンチ、PC接続用USB3.0ケーブル(2m)*1USB2.0ケーブル(0.5m)×2、クイックガイドが入っていました。どうやら欠品はなさそうです。


クイックガイドは、最低限のセットアップ手順を示しただけの本当にごく簡素なもので、あえて読まなくてもいいかなという感じです。なお、これにはカメラドライバ、ZWO製キャプチャソフトの他に、カメラ用のASCOMドライバも入れるように指示がありますが、最近はキャプチャソフト側でネイティブ対応している場合も多いので、ASCOMドライバについては必要があったら入れるくらいの感覚でいいと思います*2


ここでちょっと心配なのはUSB3.0ケーブルです。いわゆる「きしめんケーブル」で取り回しが良さそうなのはいいのですが、強い曲がり癖がついて断線が心配です。また、そもそもシールドが弱そうで、実用時のノイズ混入、あるいは逆にノイズ放出の可能性が気になります。シールドが不完全なUSB3.0の機器、ケーブルが、2.4GHz帯の無線(WiFi, Bluetooth等)と干渉しうるのは有名な話です。
www.intel.com


特に、至近で2.4GHz帯を利用する機器(ASIAIR PRO、AZ-GTi等)を使う場合は、頭に入れておいた方がいいかもしれません。もしノイズが問題になるようなら、シールドのしっかりしたケーブを用いる、フェライトコアを追加するなどの対策が必要になってきそうです。


また、2mというケーブルの長さもなかなか微妙なところ。短すぎはしないですが、決して余裕のある長さでもありません*3。規格上、ケーブルは最長3mまで長くできますが、このくらいの長さのケーブルになると固くて重く、取り回しが厄介です。カメラからのケーブルは短いものにとどめ、望遠鏡周辺に固定したハブやアクティブリピーターケーブルに繋ぎ、ここからPCへ引き回した方が使いやすいかもしれません。


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次にEOS-EFマウントアダプターII。こちらは本体のほかに、2種類のシムリングが2枚ずつ入っていました*4。このシムリングはどうやら、このアダプターに2インチフィルターを内蔵した際に生じる光路長の変化を調整するためのもののようですが、各シムリングの厚さが不明なこともあり、ちょっと面倒そうです。


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アダプターはマウント部と本体、延長筒の3つに分割できます。延長筒は取り付けると光路長を5mm延長することができ、ASI 224, 290, 385等、フランジバックが12.5mmの小型カメラに対して使用します。今回のASI2600MC Proでは不要です。


本体の内側には2インチフィルターを取り付ける溝が切られています。なお「ひょっとしたらAPS-C用のマウント内フィルター(LPS-P2-FFなど)が付いたりするのかしらん?」と思ったりもしましたが、案の定、付けるには内径が大きすぎました。ただ、なんらかのスペーサーで内径を小さくするなど工夫すれば、付けられないこともなさそうです。


マウント自体はそこそこしっかりした印象で、軽く触った感じではグラつきのようなものは感じられませんでした。


ノイズ比較


さて、冷却カメラで気になるのは、何と言っても画像のノイズだと思います。そこで、非冷却の場合と0℃まで冷却した場合について、ダークフレームのノイズを、これまで使用していたEOS KissX5 SEO-SP3と比較してみました。


露出は1コマ当たり10分とし、ASI2600MC Proはゲイン0、EOS KissX5 SEO-SP3は感度をISO100に設定しました。そして、撮影した画像を現像後、レベルを一度自動調整。次いで明暗の階調幅が揃うように白色点を動かしています。なお、以下の写真は画像中心部の900×600ピクセルの範囲を切り出しています。


まずは非冷却のASI2600MC Proから。撮影時のセンサー温度は33℃です。


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結構ノイズが出ています。この手のCMOSカメラには、デジカメと違って画像エンジンが載っていませんから、RAWの段階でノイズ除去が働かず、CMOSからの信号がそのまま出てくることになります。裏面照射型のIMX571とはいえ、素の性能はこんなものだということでしょう。


なお、ZWOは本製品で「ゼロアンプグロー」を謳っていましたが、たしかにアンプに由来する熱ノイズは一切見られませんでした。これは非常に喜ばしいことです。



次にこれを0℃まで冷却すると、こうなります。


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一気にノイズが消えました。


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これはヒストグラムを見比べても明らかで、ピークの幅が狭まると同時に、すそ野の広がりも抑えられています。このくらいノイズが減ってくれるなら、夏場も安心して撮影できそうです。



そしてEOS KissX5 SEO-SP3。撮影時のセンサー温度*5は非冷却のASI2600MC Proと同じく33℃です。


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意外なことに、ホットスポットらしき輝点はあるものの、恐ろしくノイズが目立ちません。


確かにピクセルサイズは4.3μm四方と、3.8μm四方のIMX571より大きいですが、ピクセルの面積比は1.3倍くらいですし、9年前のEOS KissX5のセンサーに対し、IMX571は最新の裏面照射型。ここまであからさまに差が出るほどの性能差があるとはとても思えません。


となると、やはり画像エンジンの仕業と考えざるをえません。内部でどんな処理をしているのかが完全なブラックボックスなので、何が起こっているかは推測するしかないのですが、暗部のトーンカーブを意図的に寝かせてノイズを目立たなくするなど、なんらかのノイズリダクション処理を噛ませている可能性は高そうに思います。その場合、天体写真において淡いガスなどの微妙な階調は失われてしまいますし、短時間露出での画質は著しく悪化することになります。このあたりは自分の感覚とも比較的一致するところで、中らずと雖も遠からず、といったところではないかと思います。


消費電力


冷却カメラに手を出すのをためらう最大の理由の1つが、消費電力だと思います。遠征地に発電機を持ち込む人などを見ていると、心配になるのも無理のないところです。


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そこで、ASI2600MC Proの消費電力がどの程度のものなのか、実際に確かめてみました。室温約25℃の条件下、センサーを0℃に冷却し、露出15分でダークフレームを撮り続けて、どのあたりでバッテリーが切れるか確認します。内蔵の結露防止ヒーターはONの状態にしました。使うバッテリーは、内部バッテリーを9Ahのもの(KungLong WP1236W)に交換したSG-1000です。


ASI2600MC Proの消費電力は、カタログ値で最大3A。おそらくはそのほとんどが冷却装置由来のものでしょう。今回、センサーを0度に冷やすために、冷却装置はおおむね60%程度のパワーで動いていたので、9Ah÷(3A×0.6)=5で、5時間も動けば上出来、実際にはヒーターやCMOS周辺の回路も電力を消費するので、4時間半くらいで力尽きるかと思っていました*6


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ところが、実際には思った以上に善戦し、バッテリーが切れたのは実に約5時間55分も経ってからのことでした。いったん低い温度に達すると、そのあとは意外と電力を消費しないものなのかもしれません。


大容量のバッテリーを新調しなければと覚悟していたのですが、これならそこまで大容量のバッテリーでなくとも運用できそうです。

*1:厳密には「USB3.0」は2019年2月に「USB3.2 Gen 1x1」に改称されているのですが、ここでは面倒なのでUSB3.0で通します。

*2:ZWOのサイトでもOptionalの扱いになっています。

*3:普段、惑星撮影で使ってるUSB3.0ケーブルは2mなので、なんとかなりそうではありますが。

*4:リングの表面処理の違いからそう判断しましたが、違うかもしれません。

*5:BackyardEOSでの表示値

*6:おまけに、今までの使用で多少なりともバッテリーは劣化しているはずですし。

GW前半は「荒れ模様」

世の中、コロナ禍のせいで何かと暗くなりがちですが、こういう時こそ「ご近所遠征」が力を発揮するとき。いくら単独行とはいえ、遠くに遠征というのはさすがにマズいですが、徒歩で行けるご近所圏内ならあまり心配なし。というわけで、まずは先週末、久々に快晴ということでいつもの公園に出撃しました*1


この日は天気こそいいものの、終始強めの風が吹いていました。そこで、焦点距離は欲張らず、ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(f = 624 mm)とミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(f = 200 mm)を持ち出すことにしました。序盤は系外銀河の集団を、夜半過ぎからは昨年来の課題であるアンタレス周辺を狙うつもりです。


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まず最初は、しし座の腹側にあるM95, M96, M105のトリオを狙うことにします。この領域は7年前に撮りましたが、当然のことながら、当時とは撮影方法も画像処理方法も違うので、どこまで表現することができるか楽しみです。
urbansky.sakura.ne.jp


一方で、光害の主因は水銀灯や蛍光灯からLEDに移っているでしょうし、撮影した季節も違う(以前は2月)のはマイナス要因です。このあたりがどう出るでしょうか?


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撮って出しを見てみると、案の定真っ白。この日は風が強かったので、大気中のチリが吹き飛ばされることを期待してたのですが、やはり冬とは違ってそううまくは行きません。


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2020年4月25日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出1200秒×8コマ, IDAS/SEO LPS-P2-FF使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

これを仕上げてみたのがこちら。一応、それぞれの銀河は確認できます……が、個人的にはもう少しきれいに写ってほしいところ。仕上がりとしては7年前と大差なく、正直、期待外れの結果です。やはり、上で書いたマイナス要因が大きく効いていそうな気がします。



夜半頃からは、アンタレス周辺の撮影に移ります。


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昨年撮影にチャレンジした時、街灯からの迷光に悩まされたので、南に低い対象を撮る際には上の写真のような遮光システムを使っています……というほど立派なものではなく、自在クリップを介して植毛紙を貼ったスチロール板を三脚に取り付けただけのものです。それでも、街灯からの直射光はしっかり遮れるので、実用上は十分です。


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ところが、この日は上にも書いたように風が強く、スチロール板がひらひらと煽られて全く役に立ちません。仕方がないので、上のように有りものの厚布(三脚カバーを展開したもの)をかぶせて遮光できる面積を増やすとともに、重さを増して煽られにくくしたのですが……風は強くなる一方で*2、ついには三脚ごと吹き飛ばされてこちらに倒れてくる始末。直そうと思って席を立てば、今度は椅子が吹き飛ばされ……。これではとても撮影どころではありません。やむなく撤収と相成りました。


どんなに空が晴れていても、風が強いと撮影にならないという一例でした orz




次いで29日の昭和の日。この日も朝から雲1つない快晴でした。風も穏やかで、25日夜に強風で撮り損ねたアンタレス周辺のリベンジのチャンス……というところでしたが、大気中にチリや水蒸気が多いようで、青空が明らかに白っぽいです。


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Windyの予報を見ても、PM2.5の濃度はそれなりに高そうで、大気の透明度にはあまり期待できません。


そこで予定変更。夜半頃の月没を待って、久々にへび座の「わし星雲」ことM16を狙うことにしました。


M16を撮るのはおよそ4年ぶり。フィルター以外、機材は当時と全く同じですが、撮り方等は当時から変化しています。先のM95, M96, M105では、最終的な画像が7年前からあまり変化がありませんでしたが、こちらはどうでしょうか?
urbansky.sakura.ne.jp


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この夜は予想通り大気の透明度が最悪で、さそり座で見えるのはアンタレス(1.1等)とジュバ(2.3等)のみ。はくちょう座もデネブ(1.3等)とサドル(2.3等)しか見えないというありさまでした。おそらく最微等級は、天頂付近でも良くて2.5等くらいしかなかったのではないかと思います。高度が下がると空は猛烈に明るくなり、沈みかけの北斗七星など、升の部分を構成するドウベ(1.8等)、メラク(2.3等)、フェクダ(2.4等)でさえほとんど見えなくなってしまいます。こんな状態で無理にアンタレス周辺なんかを狙わなくてよかったです。


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とにかく透明度が悪くて光害の影響も非常に大きいため、NB1フィルターを使っているにもかかわらず、撮って出しの状態でこの白さ。都心といえども、ここまで酷い空はあまり記憶にありません。こんな状態で果たして4年前を超えられるのでしょうか……?


天文薄明に食い込みながらも必要枚数を確保*3後、フラット補正、コンポジットを施して……出てきた結果がこちら。


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2020年4月30日 ミニボーグ60ED+レデューサー 0.85×DG(D60mm, f298mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

うん、あの酷い空で撮ったにしては上出来じゃないでしょうか?ある程度淡いところまで、どうにか抽出できました。4年前と比較すると、使っているフィルターが違うとはいえ差は大きく、撮り方含めてさすがに進歩はしたかなと思います。


なお、左下には楕円形の星雲、Sh2-48が見えています。また、M16のすぐ右上には散開星団が見えていますが、これにはTr 32(Trumpler 32)というカタログナンバーが振られています。天体カタログについては、こちらの過去記事も参照ください。
hpn.hatenablog.com



冒頭でも書きましたが、外出自粛の雰囲気の中、街なかの自宅近くで天体撮影する方も徐々に増えているようです。個人的には嬉しい限りで、対象さえ選べば、ちょっとした工夫とテクニック次第で遠征先で撮るのにも負けないような写真を撮ることができるのだ、ということを、この機会にもっと広く知ってもらえればと思います。


フードの迷光処理


昨年アンタレス周辺を撮影した際、街灯からの直射光が悪さをしていたのは記事にも書いた通りですが、この迷光のパターンをよく見るとうっすら縞模様になっています(下図)。ミニボーグのフードの内側には、迷光防止のために同心円状に細かい溝が切られているのですが、どうもここで反射した光が迷光となっていたようです。


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フードからの迷光(白矢印の部分)


今まで作業が面倒そうでほったらかしにしていたのですが、ここは一念発起。フードの内側に植毛紙を貼ることにしました。とはいえ、両面テープなどを使って直接フードに植毛紙を貼り込むと、失敗した時が面倒ですし、剥がすと糊が残ってしまうだろうところも嫌な感じです。そこでひと工夫。手元のクリアファイルを利用して、以下のように植毛紙をセットしました。


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これならやり直しは何度でもできますし、フードにもダメージが残りません。この方法でミニボーグ55FLと同60EDのフードを処理しました。


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作業前後を比較してみると、植毛紙を貼った方が明らかに反射光が減っていて、一応の効果はあるようです。


なお、ここで使った植毛紙は東急ハンズで「パイロンロール」という名前で売っているもので、1091mm幅×1mで税別800円という安さです。裏面に糊などはついていませんが、望遠鏡専門店等で植毛紙を買うよりずっと安上がり。今まであちこちで使ってますが不満らしい不満もなく、お勧めです。

*1:案の定というかなんというか、この日も29日も、行き帰りを含めた全工程で、人っ子ひとり出会いませんでした。

*2:おそらく、瞬間的には10m/s近く行っていたのではないかと思います。

*3:天文薄明開始後に撮ったコマが、一番背景が暗かったのはここだけの内緒。多分、高度が上がって光害の影響が軽減されたせい。

スーパームーン

先日の「アトラス彗星(ほぼ)終了」の記事は、Twitterでバズったこともあってか、前代未聞の大量アクセス。「通知が止まらないとはこのことか……」と嬉しい一方、内心冷や汗ダラダラでした。みなさま、ありがとうございます。


しかし、あの記事では「(ほぼ)終了」と断言してしまったけど、何かの奇跡でうっかり大復活を遂げたりすると、とんでもない飛ばし記事を書いたことに……。が、海外の観測データなどを見ると、どうやら無事(?)核崩壊&減光に向かっている*1ようで、とりあえず記事内容は嘘にならずに済みそうです(^^;


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さてさて、そんなこんなで落ち着かなかった一昨日の晩、いわゆる「スーパームーン」とのことで、こちらも機材を玄関先に出して撮影を行いました。


機材はED103S+SDフラットナーHD+EOS KissX5(未改造機)。焦点距離811mmなので、APS-C機で月を撮るのにちょうどいいです。最初は、EdgeHD800にASI290MMを組み合わせてモザイク撮影を行うことも考えたのですが、どうせ満月で細かい地形もはっきりしないので、前記のセッティングで行くことにしました。


とはいえ、Registaxでのウェーブレット処理はぜひかけたかったので、EOS KissX5でひたすら連写。5秒間隔*2で、270コマほどを撮影しました。あとは、Autostakkertで75%を目途にスタックしたのち、Registaxでウェーブレット処理を加えて……こう!


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2020年4月7日 ED103S+SDフラットナーHD(D103mm, f811mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5, ISO200, 露出1/1000秒×200コマ
Autostakkert!3でスタック後、Registax6によるウェーブレット処理

やはり、動画カメラでモザイク撮影をやった時ほどの精細さには欠けますが、大きさを見る分には十分でしょう。この時の月までの距離はおよそ35万6900km(地心距離)。今後、最小径の月と比較すれば、その大きさの違いがハッキリ分かるでしょう。


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ちなみに、ティコクレーターの左下、欠け際近くには月面最大のクレーター、バイイ(Bailly)が見えています*3。直径はおよそ300kmで、東京~名古屋間の距離に匹敵します。


月は、地球の周りを楕円軌道で公転しています。また、月の赤道面は公転面に対して6.7度傾いています。これらの理由のため、月は上下左右に首振り運動をします*4。そのため、時期によってはこのバイイも見えやすくなったり見えづらくなったりします。今の時期は月の南極側がこちらを向いていて、比較的バイイが見やすくなっています。


なお、オマケで上の写真の彩度を思いっきり上げてみたのが下の画像。


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思った以上にカラフルなのに驚かれたかもしれません。これは溶岩の噴出した時期や成分の違いを反映しています。


まず、ティコなどの新しいクレーターの周りは青白くなっていますが、これは岩の表面が削れてフレッシュな内部が見えているためです。時間がたつと、これらの岩は宇宙風化によって赤みを帯びてきます。また、「静かの海」*5は青黒く見えていますが、これはチタンの含有率が高いためと言われています。一見、灰色一色の世界にしか見えない月面ですが、こうしてみると面白いものです。

*1:Comet Observation Databaseの最新データでは、10.0等を切る観測データも出ています。

*2:ミラーショックを防ぐため

*3:月の表側で最大。裏側にはヘルツシュプルング(直径536.37km)やアポロ(直径524.23km)などさらに大きなクレーターがあります。

*4:この動きを秤動(ひょうどう)といいます。

*5:うさぎの頭に相当する部分