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思わぬお年玉

みなさま、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。


さて、新年早々ありがたいことに、元・天文少年である職場のボスから「もう使わないから」ということで、タカハシの製品をタダで譲っていただきました!


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はい、旧型のスカイパトロール(TG-SP)です。実はこれが初めてのタカハシ製品……


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と思ったら、よく考えたら大昔にツァイスサイズのHi-Or 2.8mmを買ったことがありました。これを含めると2つ目ですね(^^;



さて肝心のモノですが、それほど使っていなかったようで、外観は非常にきれいです。


当然オートガイドには対応せず*1、コントローラは電源のON/OFFと北半球・南半球の切り替えスイッチ、2倍速ボタン、停止ボタンのみというシンプルなものですが、広角レンズで使う分には十分です。


電源は単一4本の6V。モバイルバッテリーでよく使われる5Vじゃないのが惜しいところですが、時代を考えれば仕方ないでしょう。


ただ、ちょっと困ったのはマニュアルがなくなっていた点。見るからに簡単な機材なので、マニュアルなどあってもなくてもどうでもいい、というのは確かなのですが、ないと例えばコントローラのボタンの意味すら分からず面倒です。この点、ビクセンなどは、旧製品を含め取扱説明書をウェブ上で全部公開してくれています。なにかと便利なので、ここはぜひ見習ってほしいところです。


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とりあえず、手持ちの機材でシステムを組み上げてみました。Manfrottoの190プロアルミニウム三脚 3段(MK190XPRO3)に3/8"~1/4"ネジ変換用アダプターを介して低重心ガイドマウントを載せ、その上にTG-SPを載せています。


雲台はとりあえずベルボンのQHD-51を。カメラは天体用に使っているEOS KissX5 SEO-SP3に、「撒き餌レンズ」であるシグマ 18-50mm F3.5-5.6 DCを付けてみました。カメラ側がここまで軽いと*2、それなりに安定してくれています。


とはいえ、重心が三脚の中心から大きくズレているのは確かなので、せめて北側に三脚の脚が来るように設置した方が気持ち安定しそうです。


実際にどの程度使い物になるかは分かりませんが、ぶっちゃけ、V金具だけでも、AZ-GTiとの組み合わせなどを考えれば十二分に役に立ちそうですし、楽しみが増えました(^^)

*1:ヤフオクを見ると、ガイド端子を取り付ける改造を請け負ってくれる方もいるようです。

*2:カメラが570g、レンズが250g、雲台が180g

今年も終わりです。

今年もあっという間に大晦日。皆様、今年1年、お付き合いいただきありがとうございました。


今年はようやく母の介護のペースもつかめて、ほぼ毎月撮影に行くことができました。2月に購入したNebukaBooster NB1フィルターの効果も絶大で、惑星状星雲や散光星雲、超新星残骸に対して期待通りの性能を発揮してくれました。


光害の激しい都心でも一定水準以上の写真をモノにできて、それなりに満足しているのですが、一方で2017年後半くらいから感じ始めたKissX5改造機の限界がいよいよ見えてきた感じがします。一見きれいに撮れてはいるのですが、相当無理をさせているのは確か。散光星雲の淡いところなど、ノイズを抑え込むために相当無茶な処理をしていますし、その結果出てきてしまうアーティファクトに悩まされるという状況が続いていました。カメラ自体、製品としては8年以上も前の機種ですし、やはり後継機を考えるべき時期に来ているようです。


後継機としてまず真っ先に思い浮かぶのは、EOS RまたはEOS RPの改造機です。同じキヤノンなので、マウントや制御ソフトの更新がいらないのが魅力。ミラーレスなのでミラーによるケラレの心配もありません。


しかし、35mm判フルサイズともなると光学系への要求性能が高くなります。例えば、手持ちの機器で言えばBORGのレデューサー0.85×DGはイメージサークルが小さくてケラレますし、EdgeHDもイメージサークル径がφ42mmなのでかなり厳しいです。まぁ、このあたりはクロップ撮影でクリアできるのですが……。


ミラーレス機なのにF5以下になるとボックスケラレが出る*1という話もあります。今ではこれに対応した改造(SEO-SP4II改造)もメニューにありますが、割高です。


また、キヤノンの撮像素子はKissX6i以降、「ハイブリッドCMOS」や「デュアルピクセルCMOS」など、動画撮影や合焦速度を重視したチューンを行っていますが、その分、静止画の画質が一歩劣る感じがあるのも嫌なところです。さらに、デジカメの画像処理エンジンがどんな処理を行っているのか不明なのは同じで、星雲のようなごく低照度の対象に向いているとはいいがたい部分があります。*2


そこで次に……というか、だいぶ前から妄想していたのが、APS-Hサイズの「KAF16200」を搭載した冷却CCDカメラ……具体的にはQHY16200Aなどです。冷却カメラの類は、電源の問題もあって以前は検討の俎上に上ることすらなかったのですが、最近では大容量のリチウム系バッテリーも登場してきていて、現実的な選択肢になってきました。


KAF16200の場合、センサーサイズが控えめな分、35mm判フルサイズのものに比べて比較的安価ですし、モノクロなので柔軟なフィルターワークが可能……となかなか魅力的だったのですが、そこに降ってわいたのが、みなさんご存知、ON SemiconductorのCCD生産終了の報。大幅な品薄&価格高騰は避けられない情勢になってしまいました。


また、このタイミングで冷却CCDを買ったとしても「最新の旧型機種」となるのは明らかで、たとえポテンシャルが高かったとしても、あまりいい気はしません。さらに言えば、比較的安価とは言ってもフィルター等までそろえれば一式で60万円は軽く超えそうですし、そもそもフィルターを交換しながら撮影するというのは、長時間露出が必要な都心での撮影ではあまりにも時間がかかりすぎてちょっとしたハンディです。


と、そんなこんなで悶々としていたのですが、年末近くになって、ZWOから新機種が発表になりました。ASI6200MC Pro、同MM Pro、ASI2600MC Pro、ASI533MC Proなどです。これらはいずれもソニー製の裏面照射型CMOSを採用していて、フルウェルキャパシティやリードノイズについてはKAF16200をしのぐ性能を持っています。


中でもASI2600MC Proは貴重なAPS-Cサイズで、デジカメの置き換えにはもってこい。カラーモデルしかないのが難といえば難ですが、上で書いたように都心でのモノクロカメラの運用には厄介さが付きまとうため、ここは甘受してもよいでしょう。価格は20万円台で、これとて決して安くはありませんが、EOS RにSEO-SP4II改造を施すとさらに高額になるので、それを考えれば許容範囲内です。


www.kyoei-tokyo.jp

あ、大晦日までに注文すると2インチDuo-Bandフィルターをもらえるのか……





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*1:おそらくセンサーが一段奥まった場所にあるため、周辺の壁でケラレるのかと思います。

*2:あまりに低照度の対象は、画像処理エンジンによるノイズリダクションやトーンカーブ調整によって消えてしまっているのではないかという強い疑いがあります。総露出時間が同じ場合、「短時間露出、多数枚」より「長時間露出、少数枚」の方が明らかによく写るあたり、この影響なのではないかと思われますが、処理内容は完全にブラックボックスで、証明する手立てすらないのが実情です。

本年撮り納め

今年最後の天文イベントということで楽しみにしていた26日の部分日食は、一点の晴れ間もない「快曇」で見事に撃沈したわけですが、翌27日は逆に一点の曇りもない快晴。強風が予想されていましたが、恐れていたほどではなかったのでいつもの公園に出撃してきました。おそらくこれが今年の撮り納めになるかと思います。

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空が光害で明るく照らされる夜半前、まずは小手調べに、比較的明るい「カリフォルニア星雲」ことNGC1499を55FLで狙います。ここは2016年1月同12月の2回撮っていますが、もう一つ納得のいく写りではなかったので、NebulaBooster NB1フィルターを用いて再チャレンジです。


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撮って出しの状態ではこんな感じ。このところ輝線星雲用に重宝しているNB1フィルターですが、ここでも遺憾なくその威力を発揮してくれています。都心の激烈な光害の中、これだけ見えていてくれれば処理も楽です。


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夜半頃からは、鏡筒をED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHDに載せ替えて、ふたご座の超新星残骸「くらげ星雲」ことIC443を狙います。


直前まで、おおいぬ座の「トールの兜星雲」として知られるNGC2359とどちらを撮るか相当迷ったのですが、高度*1や色合い*2を考えて、難易度がやや低いと思われるIC443を選びました。とはいえ、こちらも非常に淡い星雲で、どこまで写るかかなり心配です。


念のため、ISOは200に設定し*3、1コマ当たりの露出時間も20分とかなり長めにしました。


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撮って出しだと、最も星雲が濃い「くらげ」の傘部分が視認でき、脚に当たる部分もうっすらとですが見えるようです。これなら画像処理でどうにかできるでしょう。


撮影は2時ごろにひとまず予定枚数を撮り終えたのですが、中焦点&NB1フィルター向きの天体が春の天体にほとんどないこともあり、浮気せずに3時過ぎまで撮り足して終了としました。


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ところで、現在撮影に用いている公園ですが、最近になって隣接するマンションの敷地内にLED照明が設置され、公園内を強烈に照らすようになってしまいました。北天を撮ろうとしない限り、迷光などの直接的な影響はあまりなさそうですが、光があまりに強くて不愉快なのは確かです。何らかの形での目隠しが必要かもしれません。


帰宅後は画像処理。まずはカリフォルニア星雲からです。


例によってRGBに分割して丁寧にフラット補正を行った後、各種強調処理等を噛ませて出てきた結果がこちら。


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2019年12月27日 ミニボーグ55FL+レデューサー0.8×DGQ55(D55mm, f200mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO100, 露出900秒×8コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

メインとなる星雲に加えて、そこから延びる淡いHα領域も見えています。北に渋谷や新宿を控えたこの場所でここまで写ってくれればまずは上出来でしょう。


ちなみにこのカリフォルニア星雲ですが、すぐ南側にあるペルセウス座ξ星の放射により星間の水素ガスが励起され輝いているものです。このペルセウス座ξ星というのが実はものすごい星で、質量は太陽の30倍、表面温度は太陽の6倍にあたる35000度、明るさは可視光の範囲で太陽の12700倍、紫外線まで含めると太陽の263000倍……という青色巨星で、肉眼で見ることができる最も熱い星の1つと言われています。ξ星は生まれた散開星団からはじき出されて現在も高速で宇宙空間を移動中とのことなので、いずれはこの星雲も見えなくなってしまうものと思われます。



次いで「くらげ星雲」ことIC443ですが、こんな感じに。


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2019年12月28日 ED103S+SDフラットナーHD+レデューサーHD(D103mm, f624mm) SXP赤道儀
Canon EOS Kiss X5 SEO-SP3, ISO200, 露出1200秒×12コマ, IDAS NebulaBooster NB1使用
ペンシルボーグ25(D25mm, f175mm)+ASI120MM+PHD2によるオートガイド
ステライメージVer.7.1eほかで画像処理

心配していた「くらげ」の脚の部分もそこそこ出てきて、それらしい見た目になってくれました。OIII由来と思われる青緑色もわずかに見えていて、形状含め網状星雲と同種の天体であることが類推できます。


本来はナローバンド向きの天体ですが、都心からデジカメでもある程度撮れることが分かったのは収穫でしょうか。

*1:比較的高度が低いので、LED照明からの迷光を拾いかねない。

*2:青緑色のOIIIの成分が多く、光害との分離が厄介そう。

*3:最低感度のISO100に設定した場合、KissX5はリードノイズ等の挙動がやや怪しく、光子の利用効率も決して良くないため。リーズナブルな露出時間内で背景レベルが上がりすぎないのであれば、ISO800までは上げても大丈夫そうです。ちなみにKissX5ではISO800あたりが1e-/ADU……いわゆるユニティゲインに相当し、光子の利用効率が最大になります。