PHD2の日本語マニュアルを公開しています。こちらからどうぞ。

個人サイト「Starry Urban Sky」もよろしく。

天体カタログ覚え書き

先日、Twitter上でこんなやり取りがありました。




で、そういえばTrとかCrとか言われてもなかなかピンと来ないよなぁ……というわけで、備忘録もかねて星雲、星団のカタログについて有名どころを簡単にまとめてみました。


なお、これらのカタログについては、上のTweetでも言及していますが、以下のページなどがある程度参考になるかと思います。

github.com
en.wikipedia.org


初級編:たぶん誰もが知ってる定番

メシエカタログ(Messier catalog, 略号:M)


もっとも有名な天体カタログの1つです。


このカタログを編纂したシャルル・メシエ(Charles Messier, 1730~1817)は、フランス海軍天文台に勤めるかたわら、彗星探しに没頭していました。今で言う「コメットハンター」のはしりです。彼は口径5~7cm程度の屈折望遠鏡を使って13個の彗星を発見していますが、その際、彗星と紛らわしい天体の多さに悩まされます。そこで、1764年ごろから、このような天体のリストを作成することにしたのです。


1774年にカタログの第1巻(M1~M45)、1781年に第2巻(M46~M68)、1784年に第3巻(M69~M103)が発表されました。さらに20世紀に入ってから、メシエが観測していたもののカタログから漏れていたもの、あるいは助手のピエール・メシャンが発見したものであるM104~M110が追加されています。


口径が小さく、かつ光学技術の劣る18世紀の望遠鏡で発見された天体ばかりなので、比較的明るく、アマチュアの小望遠鏡でも楽しめる天体が多いのが特徴です。


ニュージェネラルカタログ(New General Catalog of Nebulae and Clusters of Stars, 略号:NGC


メシエカタログに次いで有名なカタログです。


天王星の発見などで有名なイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェル(Sir Frederick William Herschel, 1738~1822)は、宇宙の構造に興味を持ち、その研究の一環として星雲のカタログの編纂に取り組みました。妹のカロライン・ハーシェル(Caroline Lucretia Herschel, 1750~1848)と協力して仕上げたカタログは、2500個の天体を収載した「星雲目録」(Catalogue of Nebulae and Clusters of Stars, CN)として1786年に発行されます。この「星雲目録」は、息子のジョン・ハーシェル(Sir John Frederick William Herschel, 1792~1871)によってさらなる天体の追加等が行われ、5079個の天体をを収載するジェネラルカタログ(General Catalog of Nebulae and Clusters of Stars, GC)が1864年に発行されました。


デンマーク出身の天文学者ジョン・ドレイヤー(John Louis Emil Dreyer, Johan Ludvig Emil Dreyer, 1852~1926)は、このジェネラルカタログにさらに天体を追加し、7840個の天体を収載したニュージェネラルカタログ(New General Catalog of Nebulae and Clusters of Stars, NGC)を1888年に発表しました。


現在主に用いられているものは、1973年にパロマー写真星図と照合して誤りや曖昧さを修正したRevised NGCと呼ばれるものです。


インデックスカタログ(Index Catalog, 略号:IC)


NGCの追補版とでもいうべきカタログで、作成者は上でも出てきたジョン・ドレイヤー。


まず1894年に1529個の天体を収載したカタログが発表され、さらに1908年に3857個の天体を追加したカタログが発表されています。厳密には、前者をインデックスカタログ(IC)、後者をセカンドインデックスカタログ(2IC)と呼びますが、通常は両者をまとめてインデックスカタログと呼びます。


時代的には、天体写真による観測が普及し始めてきた時期でもあり、かなり暗い天体まで収載されています。


カルドウェルカタログ(Caldwell catalog, 略号:C)


メシエカタログにはアマチュアの観望に適した明るい天体が多数収載されていますが、おうし座のヒアデス星団やペルセウス座二重星団など、明るいのに漏れている天体も少なくなく、また南半球の天体はそもそも収載されていません。


そこで、イギリスのアマチュア天文学者パトリック・アルフレッド・カルドウェル=ムーア(Sir Patrick Alfred Caldwell-Moore, 1923~2012)が1995年、アメリカの天文雑誌Sky & Telescope誌で発表したのがこのカタログです。


このカタログには、アマチュアの小望遠鏡でも観察しやすい109個の天体が、北→南の順番で収載されています。このうち、日本本土から観察できるのは80個ほどです。



中級編:比較的メジャーなカタログ。知ってると便利。

メロッテカタログ(Melotte catalog, 略号:Mel)


グリニッジ天文台で活動したイギリスの天文学者フィリベール・ジャック・メロッテ(Philibert Jacques Melotte, 1880~1961)が1915年に発表した、星団のカタログです。


イギリスのアマチュア天文学者ジョン・フランクリン・アダムス(John Franklin-Adams, 1843~1912)は、南アフリカヨハネスブルグとイギリスのゴダルミングで撮影を行い、全天を206枚の写真に収めました。この写真を元に「フランクリン・アダムス写真星図」が発行されましたが、この星図の第2版の編集を任されたメロッテは、ここから245個の星団を拾いだし、1915年にカタログとして発行しました。


このカタログには散開星団球状星団の両方が含まれています。有名なのはペルセウス座α星周辺のMel 20、ヒアデス星団のMel 25、かみのけ座を形作るMel 111などです。


シャープレスカタログ(Sharpless catalog, 略号:Sh2)


アメリカの天文学者スチュワート・シャープレス(Stewart Sharpless, 1926~2013)が、パロマー天文台スカイサーベイ(Palomar Observatory Sky Survey, POSS)で得られたデータから銀河系内のHII領域を調査し、登録したカタログです。1953年に142の星雲が記載された初版(Sh1)が出版され、1959年にSh1収載のものをを含む313の星雲が記載された、最終版である第2版(Sh2)が出版されました。


バーナードカタログ(Barnard Catalog of 369 Dark Objects in the Sky, 略号:B)


アメリカの天文学者エドワード・エマーソン・バーナード*1(Edward Emerson Barnard, 1857~1923)がまとめた暗黒星雲のリストです。まず1919年に182個が収載されたものがAstrophysical Journalに発表されました。そして彼の死の4年後の1927年、彼が撮影した天の川の写真は“Photographic Atlas of Selected Regions of the Milky Way”という写真集として出版されます。この中で先の182個を含む369個の暗黒星雲が番号付きで紹介されました。これがバーナードカタログとして現在でも広く使用されています。



上級編:フォトコンなんかでたまに目にすることもあるかも?

ファン・デン・べルグカタログ(van den Bergh catalog, 略号;vdB)


カナダの天文学者シドニー・ファン・デン・べルグ(Sidney van den Bergh, 1929~)が1966年に発表した反射星雲のカタログで、パロマー天文台スカイサーベイ(Palomar Observatory Sky Survey, POSS)のデータを基にしています。元々のファン・デン・ベルグのカタログには赤緯-33度以北の158個の天体が収載されていますが、1968年にルネ・ラシーン(René Racine, 1939~)により159個まで拡張されています。


プレアデス星団周辺の反射星雲(vdB20~23)やアンタレス周辺の反射星雲(vdB107)などが有名です。


LBN(Lynds' catalog of Bright Nebula)


1965年、アメリカの天文学者ビバリー・リンズ(Beverly Turner Lynds, 1929~)がパロマー天文台スカイサーベイ(Palomar Observatory Sky Survey, POSS)のデータを基にまとめた星雲のカタログです。カタログには銀河系内の超新星残骸や反射星雲、HII領域など、1125個の天体が収載されています。


LDN(Lynds' catalog of Dark Nebula)


上記のLBNと同じく、1962年にリンズがPOSSのデータを基にまとめた暗黒星雲のカタログです。1802個の暗黒星雲が収載されています。


シメイズカタログ(Simeis observatory catalog of emission nebula)


これはクリミアにあるシメイズ天文台で、ソ連天文学者ヴェラ・ガゼ(Vera Fedorovna Gaze, 1899~1954)とグリゴーリ・シャイン(Grigory Abramovich Shajn, 1892~1956)によって1955年に編集された散光星雲のカタログです。カタログはクリミア天体物理天文台の会報に掲載されており、主に北半球にある306個の散光星雲を一覧にしています。有名な天体としては、おうし座~ぎょしゃ座にかけて存在する超新星残骸Simeis 147(=Sh2-240)があります。


エイベルカタログ(Abell Catalog of planetary nebula)


アメリカの天文学者ジョージ・エイベル(George Ogden Abell, 1927~1983)が、パロマー天文台スカイサーベイ(Palomar Observatory Sky Survey, POSS)で得られたデータを基にまとめた惑星状星雲のリストです。1955年と1966年に発表され、全部で86個の惑星状星雲が収載されています。比較的古くて大きく、淡い惑星状星雲がメインです。有名な天体としては、ふたご座にある「メデューサ星雲」(Abell 21)があります。


なお、エイベルは同じくPOSSのデータを基にした銀河団のカタログ(Abell Catalog of Rich Clusters of Galaxies)も発表していて、こちらも有名なので混同しないよう注意が必要です。


ミンコフスキーの惑星状星雲(Minkowski's bright and planetary nebula, 略号:MまたはMi)


ドイツ生まれのアメリカの天文学者ルドルフ・ミンコフスキー(Rudolph Minkowski, Rudolf Leo Bernhard Minkowski,1895~1976)は、惑星状星雲のリストを1946年、1947年、1948年と3回に分けて発表しました。


M1-92やM2-9はハッブル宇宙望遠鏡からの美しい写真で有名です。


PGC(Principal Galaxies Catalog)


リヨン天文台で1983年に作成された「リヨン・ムードン銀河系外データベース」(Lyon-Meudon Extragalactic Database, LEDA)を基に、1989年に作成された系外銀河のカタログです。当初73197個の系外銀河が収載されましたが、2003年には18等以上の系外銀河983261個にまで拡張されています。


アープアトラス(Arp Atlas of Peculiar Galaxies, 略号:Arp


アメリカの天文学者ホルトン・アープ(Halton Christian Arp, 1927~2013)が編纂した系外銀河のカタログで、通常とは異なる形状をした系外銀河338個を収載して1966年に発表されました。現在では、その多くが、2つ以上の銀河が衝突したり、重力を及ぼしあって変形した相互作用銀河であることが分かっています。


ヒクソン・コンパクト銀河群(Hickson's Compact Groups of Galaxies, 略号:HCG)


パロマー天文台スカイサーベイ(Palomar Observatory Sky Survey, POSS)で得られたデータを基に、カナダの天文学者ポール・ヒクソン(Paul Hickson)が1982年にまとめた銀河群のカタログです。


数十個程度までの銀河が集まった集団を銀河群、またはよりわかりやすくコンパクト銀河群と呼びますが、このカタログには100個のコンパクト銀河群に存在する463個の銀河が収載されています。


最も有名なものは、「ステファンの五つ子」と呼ばれるHCG 92でしょう。


超上級編:知っていたらまごうことなき変態

ランプラー散開星団リスト(Robert Julius Trumpler's open cluster list, 略号:Tr)


スイス生まれのアメリカの天文学者ロバート・トランプラー(Robert Julius Trumpler, 1886~1956)が作成した散開星団のリストです。


彼は334個の散開星団について距離や明るさを調べ、遠くの星団ほど星間物質による光の吸収のために暗くなっているということを突き止めました。この結果を、1930年に論文“Preliminary results on the distances, dimensions and space distribution of open star clusters”として発表します。その中には当時はまだ正式にリスト化されていなかった37個の散開星団が含まれていて、これらが現在、Trから始まるナンバーで呼ばれています。


コリンダーカタログ(Collinder catalog, 略号:CrまたはCol)


スウェーデン天文学者ペール・コリンダー(Per Collinder, 1890~1974)が作成した、471個の散開星団を集録したカタログです。1931年に、論文“On structural properties of open galactic clusters and their spatial distribution”の付録として公開されました。


基本的には、当時知られていた天体のリスト(NGC, Mel, Trなど)を基に散開星団を分類しなおしたもので、多くは他の天体カタログの掲載天体と重複しています。しかし中には独自のものもあり、有名なものとしてはこぎつね座のコートハンガー星団(Cr399)が挙げられます。


なお、冒頭のTwitterでのやり取りでも出てきたTr5は、いっかくじゅう座のクリスマスツリー星団の西側にある散開星団で、これは同時にCr105でもあります。




キングの散開星団(King)


1949年、ハーバード大学のイヴァン・キング(Ivan R. King, 1925~)がアメリカ・マサチューセッツにあるオークリッジ天文台の16インチメトカーフ屈折望遠鏡で撮影した写真から発見した星団などを報告した論文“Some New Galactic Clusters”に掲載されている星団です。論文中で、物理的に星団に違いないもの12個をTable Iに、星団らしきもの9個をTable IIに挙げ、合計21個の星団が報告されています。


その多くは以前のカタログには収載されていないもので、ケフェウス座ぎょしゃ座に多く存在しています。


ドリゼの散開星団リスト(Dolidze clusters list, 略号:Do)


1966年、ジョージアグルジア)のアバスツマニ天体物理天文台(Abastumani Astrophysical Observatory)にいたソ連天文学者マドナ・ドリゼ(Madona V. Dolidze, 1927~2015)が、天文台の口径70cm, F3のマクストフ望遠鏡を使って行った輝線スペクトル調査に基づいて作成した散開星団のリストです。比較的まばらな散開星団が多く、全部で57個の星団が収載されています。


なお、このリストを発表したのち、ドリゼはジムシェレシビリ(G. N. Dzhimshelejshvili)と共同で11個の散開星団を追加していて、こちらはDoDzの略号で呼ばれます。


ストックの散開星団カタログ(Stock)


ドイツ生まれの天文学者ユルゲン・ストック(Jürgen Stock, 1923~2004)が散開星団の写真測光を行う際に見つけた、北天の天の川中にある散開星団のカタログです。1956年に2個、1959年に21個、そして1970年に1個が追加され、計24個が収載されています。


PK(Catalog of galactic planetary nebulae)


チェコ天文学者ルボシュ・ペレク(Luboš Perek, 1919~)とルボシュ・コホーテク*2(Luboš Kohoutek, 1935~)がまとめた惑星状星雲のリストです。最初に発表されたのは1967年で、1036個の天体を収載していました。その後何回かの改訂を繰り返し、直近の2000年の改訂では、1510個の天体が収載されています。




ちなみに、散開星団について比較的新しいカタログが多いですが、これはカメラの感度が大幅に上がったことに加え、メシエやハーシェルが活躍していた頃に比べて望遠鏡、カメラの視野が圧倒的に広くなったため、集まりの緩い散開星団も観測にかかるようになった、という側面もあるようです。

*1:オリオン座の散光星雲「バーナードループ」や固有運動が非常に大きい「バーナード星」などに名前が残っています。

*2:「天文史上最悪の期待はずれの1つ」こと誤報テク……もとい、コホーテク彗星(C/1973 E1)の発見者としての方が有名でしょう。

自システムでのフィルター径の考察

先日、光害カットフィルターのスペックをまとめた際に、コメントで「IDASは、以降の新型フィルターではMFAを出さないようだ」という情報を頂きました。

ここで言うMFAというのは、キヤノンAPS-C機のマウント内部に設置するタイプのフィルターのことです。このタイプのフィルターは光学系の構成を考えなくても使えるので大変便利。私も普段使っているのは、各社が出しているマウント内設置タイプのフィルターです。


ところが、もし今後MFAが出ないというのが本当だとすると、汎用のフィルターの使用も考えなければなりません。ここで難しいのは、光学系や撮影システムによって使えるフィルター径が異なること。多くの系ではφ48mmやφ52mmが使えますが、絶対ではありませんし、しっかりと吟味する必要があります。

そこで、手持ちの光学系について、使えるフィルターを洗い出してみました。


f:id:hp2:20190206212103p:plain

まずはビクセンのED103Sから。高性能のSDフラットナーHDやSDレデューサーHDが出た以上、純粋な直焦点で使うことはまずないと思うので、補正レンズありきで考えます。

すると、SDフラットナーHDまたはSDレデューサーHDにφ52mmフィルターが使えることが分かります。公式にフィルターが取り付けられることになっているのはここだけです。ED103Sの場合、レデューサーはフラットナーと併用が前提なので、フラットナー先端にφ52mmフィルターを取り付けるというのが基本線になりそうです。


f:id:hp2:20190206212148p:plain

次に、出動回数が一番多いかもしれないミニボーグ60ED*1。こちらも補正レンズの使用を前提にすると、マルチフラットナー1.08×DG【7108】の先端にφ40.5mm、レデューサー0.85×DG【7885】にφ52mmのフィルターが付けられることが分かります。

マルチフラットナーの方は望遠鏡界隈ではあまり一般的ではないサイズで、万事休すかと思われたのですが、カメラマウントとの接続に用いるM57→M49.8ADSS【7923】の内側にφ52mmのフィルターが取り付けられるとのこと。どうやらこちらもφ52mmのフィルターで統一できそうです。


f:id:hp2:20190206212212p:plain

こうなるとボーグ55FL+レデューサーの方も対応は簡単。レデューサー0.8×DGQ55【7880】にはφ48mmのフィルターが取り付けられるようになっていますが、カメラマウントホルダーM【7000】にφ52mmフィルターの取付が可能なので、これを利用すればOKです。


f:id:hp2:20190206212232p:plain

ところが、厄介なのがEdgeHD800。EdgeHD800での撮影には現在、純正のオフアキシスガイダーを利用していますが、このキットにはフィルターを装着できる場所がありません。どこかに無理やり取り付けるにしても、なんらかの加工が必要になりそうな気がします。


f:id:hp2:20190206212253p:plain

しかし、です。ボーグのカメラアダプターにφ52mmのフィルターが取り付けられるのであれば、M42(オス)Tアウント用カメラアダプター以降をボーグのパーツに置き換えてしまえばいいわけです。具体的には、M42P0.75→M57AD【7528】+カメラマウントホルダーM【7000】 or M57→M49.8ADSS【7923】+カメラマウントとすれば、【7000】または【7923】の内側にφ52mmフィルターを取り付けられます。

光路は若干伸びてしまうのでオートガイダー側のピント再調整は必要になりそうですが、十分実用にはなるでしょう。


というわけで、どうやらウチの光学系については、φ52mmのフィルターに統一すれば対応可能ということが言えそうです。


f:id:hp2:20190206212308j:plain

……。


f:id:hp2:20190206212327j:plain

………ん?


f:id:hp2:20190206212340j:plain

…………あれ?




f:id:hp2:20190206214404p:plain

*1:45ED IIも同様

写っていた意外な天体

先日撮影したM59とM60の写真ですが、色々調べているうちに、ちょっと面白い天体が写っていることに気が付きました。


f:id:hp2:20190204202039j:plain
f:id:hp2:20190204202056j:plain

上の写真でマーカーを付けた天体ですが、一見ただの星のようにしか見えません。ところがこれ、なんと銀河なのです。


それぞれM59cO、M59-UCD3、M60-UCD1と名付けられていて、いずれもM59またはM60のすぐ近傍に位置しています。それだけならただの伴銀河なのですが、調べてみるとこれらが普通の銀河ではありえないほどの密度で星が密集していることが分かりました。

この種の銀河が発見されたのは2000年代に入ってからと意外に新しいのですが、もちろん天体自体が知られていなかったわけではありません。こんな高密度の銀河など完全に想定外で、長いことただの星と思われていたのです。このような銀河にはUltraCompact Dwarf galaxy(UCD、超コンパクト矮小銀河)という新しい分類名が与えられています。


ここに写っている中で最初に見つかったのはM59cOで、2008年に報告が上がっています(Chilingarian, IV & Mamon, GA (2008))。直径は約200光年で、私たちの銀河系の1/750ほどしかありません。ところが、銀河系が太陽2兆個分ほどの質量をもっているのに対し、この天体の総質量は太陽3000万個分を超えます。直径が1/750なので、もし同密度なら質量は1/4億2000万*1にしかならないはずですが、これが1/6万~7万もあるのです。

しかも中心部には、全体の18%に相当する太陽580万個分の質量をもつ超大質量ブラックホールが存在していることが明らかになりました。銀河系中心にある超大質量ブラックホールが太陽410万個分ですから、これを上回っているわけです。


2013年に発見されたM60-UCD1もなかなか(Strader, J et al. (2013))。直径は約300光年で、銀河系の1/500ほどしかありませんが、その一方で、この天体は太陽1億4000万個分もの質量をもっています。これも異常な高密度です。

また、直径160光年以内に全質量の半分が集中していて、その中心部には全体の15%に相当する太陽2000万個分の質量をもつ超大質量ブラックホールが存在していることが明らかになりました。銀河系中心にある超大質量ブラックホールの実に5倍もの質量になります。


2015年に発見されたM59-UCD3はさらに凄まじいです(Sandoval, MA et al. (2015))。直径はM60-UCD1と同程度ながら、質量は太陽1億8000万個分とM60-UCD1を上回ります。中心部には、銀河系に匹敵する太陽420万個分の質量をもつ超大質量ブラックホールが存在しています。この銀河の星の密度は太陽周辺の1万倍ともいわれていて、もしこの銀河の中から夜空を見上げたら、暗い部分が見えないほど空一面にギラギラと星が輝いていることになります。


こんな風変わりな天体が生まれた理由ですが、元々はずっと大きな銀河だったものが、M59やM60に接近したことで星をはぎ取られ、中心部分のみが残ったものではないかと考えられています。


それにしても、都心から撮ったアマチュアのこんな写真でも、こういう面白い天体や数億光年も離れた天体が写るのですから、銀河の写真は面白いです。

……処理はものすごく大変なんですけど(^^;

*1:1/750の三乗